貴方と私の風紀な日々 | ナノ
暴君(+10)との大騒動

▼ ▼ ▼


「……へ」
「……え」



縦読みではありません。
この状況は何なんでしょうか。


いちおう確認してみましょう。
煙の晴れた視界には、さらりと揺れる黒髪。
ソファーに座り込むダークスーツ。
切れ長の黒目は、確かに見覚えがあって。
…ですが、私の知っている彼はもう少し髪型が丸かったし長めだった気がするんです。そう、更に言うならここまで色気というかアダルティな感じではなくて。

「誰がアダルティだって?」

低い声音は記憶にある声そっくりそのままでした。
…わぉ、どうやら心の内が外に漏れていたようですね。

「…….ええと、風紀委員長、ですよね?」
「…正確に言うと違う。僕は今風紀財団を取り締まっているから」

聞かなきゃ良かったです、何言ってるかわかりません。
ですが状況は少しずつ飲み込めてきました。
そう、思考は30秒前に遡ります。



『…委員長、紅茶が入りました』
『…そう、そこ置いといて』

私が倒れてから、2日。
委員長の所動には何の変化も見られず、私もあの時のことは熱で見た白昼夢だと断定する事にしました。…そんな白昼夢を見る時点でだいぶ異常ですが。
とにかく、いつも通りに、そう私としてはいつも通りに風紀の仕事をこなしていたその時、


どぉん!


なんかものっすごい音がしました。
大砲?
このご時世に大砲ですか?

『…何』

あ、委員長がイラァッとしてます。
眉間にぐぐっとシワが寄ってますからね、美形なのにそういう顔するから勿体無いんです。

『なんですかね…?』

どうにもこの音に聞き覚えがある、というなんとも嫌な予感しかしない既視感に、私は窓際に立ちました。
そこへ、

『!』

見えました、ええ見えましたとも。
こちらに煙をあげてまっすぐ突っ込んでくる、
明らかにヤバイ何か、が。

『唯斗!』

最後に見えたのは、
こちらにトンファーを持った手を伸ばす委員長の姿。

…あれ、なんかめちゃくちゃ焦ってますね。珍しい、
なんてすごく場違いな事をぼんやり考えていて、そう、そうしたら煙が晴れて、
目の前になんかアダルティックな委員長が、と。



以上、回想終わり。
「…なるほど、ランボの10年バズーカですね?」
「さすがだね。その通りだ」
ソファーに座り込み、淡々と答える委員長(ver10年後)。ずいぶん上等そうなソファーですね、それ。
そういえば辺りを見回してみると、なかなか豪華な部屋でした。仕事部屋、でしょうかね?
いえ別に、派手な装飾が施してある訳ではないんです。落ち着いた色の壁に絨毯、無骨でない大きな事務机、
…なんだか応接室を思い出します。
状況が状況なだけに、心が安らぎますね。

「それにしても」
ふと我に帰ると、委員長…では無いんでしたっけ?彼がこちらをじっと見ていました。

「…好都合、かもね」

……何が、でしょうか。
そこで初めて気が付きました、この世界に来たばっかでそっちに気を取られていましたが、
ぐぐっとシワの寄った眉間、
細められた黒目、
悠然と足を組んだ様子、
……どうやら、彼はとっても機嫌が良くないようです。

…機嫌が悪い時のクセは、10年前と変わらないご様子です、なるほど結構なこと。
ところでこの不機嫌モード全開のいい大人、
私にどうしろって言うんです?
もしかして10年後の私、この委員長が面倒くさくなって10年前に逃げたんじゃありませんよね?
…いやいや、それは無いですね、きっとおそらく。

「…僕は今、とっても機嫌が良くないんだ」

知ってますよ、ええ知ってますとも。
あと自分で言わないで下さい、それで落ち着くなら儲けものですが余計に黒いオーラ発散させてるだけじゃないですか。いや本当に勘弁こうむりたいです、困りました。
これはお決まりの「咬み殺す」が来ますかね、と私が腰のハンマーに手を伸ばしつつ覚悟を決めると、

「…責任取ってよ、唯斗」

予想外の言葉が降ってきました。




「…っ、んんっ…」
「…ふ、…っ…」

予想外超えました。

謎の言葉にきょとんとした私の手首をひっとらえ、思いっきりソファーに押し付けられました、そこですでにパニックだったのですが。

頭上を覆った彼は妖しく切れ長の目を光らせていて、
足の間に膝が割り込んできた瞬間、捕らえられた草食動物の気分がわかった気がしました。

「…んんっ、ふっ、む…」
「…はっ、」

苦しくて苦しくて、必死に首を振るとやっと彼は離れてくれました。
息が苦しいのもありますが、何より心臓が痛いです、なぜかめっさ暴れてます。

「…っ、」
どういうおつもりですかこの暴君。
相変わらず押し倒されたまま睨み上げると、彼は口元を緩め、ふふっと笑いました。わ、珍しい。
状況が状況じゃなかったら、もっと喜んでいたかもしれません。

「…そっか。委員長、って呼んでるってことは、僕達はまだ未発展かな?」

…….ん?
またもや理解不能な言葉が。

「…なら」

くすり、
妖しく笑う委員長、否、雲雀恭弥。
その仕草にまた心臓が暴れ出します。
妖艶。
そんな言葉が頭に浮かびました。

「…これは、過去の僕に向けて」

さらり、
頬をやわらかな黒髪がなぞり、
次の瞬間、首筋にチリッと痛みが走りました。





「…唯斗」
名前を呼ばれ、我に返りました。
目の前には学ラン、腕章、黒い瞳。
…ああ、ここは。
「…委員長…」
「……」
委員長はまばたきをすると、ふう、と肩から力を抜きました。
「…あの、」
「10年バズーカ、でしょ。未来の君に聞いた」
一瞬盛大にぽかーんとしましたが、思い出しました。そうでした、10年後の私がここに入れ替わりに現れていたんでした。
「…まあ大丈夫そうだね、」
あの草食動物達咬み殺す、
とトンファーを出した委員長の動作が止まりました。その視線はこちらを見つめたまま。
えっ、どうしたんです?時間停止してますよ?
あっ、もしかしてアレですかね、私の日頃の恨みがついに呪いとなって発動したんですか?
やった!大暴君が固まったまま動かなくなりました!

「…唯斗」
「…は、」
「それ、何」

脳内でバカやっていたら、突然名前を呼ばれました。
ものっすごく不機嫌そうに顔を歪めた委員長。ずい、と指を差されました。

「…それ」

委員長の視線を辿ります、しかし特に何も問題は無い気がします。
スカートは折ってませんし、カーディガンも校則内の色と大きさ。なんたって副風紀委員長ですし。
なら、何が…?

「…コレだよ」

ずい、と今度は顔を近づけてきた委員長が、私の首元を指しました。

「これって、…あ」

これとかなんとか言われても私エスパーじゃないんでわかんないんですけど、とうっかり悪態をつきそうになったところで合点がいきました、
そういえば先ほど、現在に戻る前に、

「……!」

やばいですまずいです、思い出したら一気に心臓が暴れ出しました。脳裏に蘇るのは大人びた暴君の笑み、頬をよぎるさらりとした黒髪、それから首筋に感じた柔らかさと、

「…!!」

ああ今私たぶんすごい顔になってます、ダメですあれはいけません、存在がR18です。ていうか10年後って25歳ですよね、あの人14の中学生になんてことしてやがるんですか、トラウマでもなったらどうしてくれるんです。実際今私は心臓が馬鹿みたいに跳ねていて死にそうな訳ですし、

「何があったの」

氷のような声音で我に返りました。

目の前でぐぐっとシワを寄せる委員長。
…あ、やらかしましたね、これは完全に。
そうですよね、そりゃ目の前で質問を無視してなにやら挙動不審に陥っている人物がいたら私でもイラッと来ます、いやでもこれは不可抗力でしょう。だって10年後とはいえあなたのせいですよ、委員長?

「むかつく」

ごめんなさい私が悪かったです。

MAXハイパー不機嫌モードに多大なる進化を遂げた委員長は、これでもかというほどに殺気を垂れ流していました、怖いです本当にごめんなさい。
先ほどまで調子にのっていた自分を殴りたいです。

「すみません委員長、ですがこれは、」
「言い訳は聞かないよ」

とりあえず風紀を乱したワケでは無い、ということを伝えたかったんですがあっさり遮られました。
そうですよねそりゃそうでしょう!

今回ばかりは防御せずにトンファーという名の制裁を受けるべきでしょうか、と目線を落とし覚悟を決めていると、

「…ほんと、むかつく」

ぐいっ、と襟元を掴まれました。



ちゅっ。
僅かな音とともに、離れる委員長。

「……は」
「…ふうん」

呆然と立ち尽くす私の前で、委員長はひどく満足そうに私を見つめました。
正確には、私の首元を。

「…悪くないね」

悪くないとか言う割には随分とご満悦です、ところであなた何してるんですか。

「…い、委員長?」
「何」
「…いえあの、今のは…」

なに、ってなんですか何とは。
こっちが聞きたいんですが?

「むかつくから」

にやり、とってもご機嫌に彼は笑い。

「君がそんな顔をするのがむかつく」
僕以外にそんな顔しないでくれる。


「これですっきりした」


もはや言葉も無く首元を抑える私を放り。
自分だけ勝手に満足した委員長は、肩に小鳥を乗せ出て行ってしまいました。
私の首元に、2つめの赤い痕を残して。



「…ぱ、パニックです」

何よりもそれを最悪だと思わず、
嬉しさすら感じてしまっている自分自身がいることに。



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