貴方と私の風紀な日々 | ナノ
突発的なネコミミday(下)

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「……というわけで、本日こいつはこんなんだが許してやってくれ、雲雀」

驚愕する委員長、というのはなかなかどうしてレアでした。やばいです。
いえ、見た目は普通ですよ?きっと一般人にはわかりません。ですが長年(不服ながら)側にいた私にはよくわかりました。かなり驚いてます。擬音語を付けるならぽっかーん、でしょう。
ああ、ここに草壁がいたらこの感動を分かち合えたんですが。残念ですね。

「……赤ん坊が言うなら、まあ、しょうがないけど」

足を組み直し、いつも通りに戻りつつある委員長があごに手をやりました。
「しょうがない」で済ませていいのかわかりませんが、彼にはとりあえず納得してもらえたようです。
相変わらずリボーンには甘いんですよね委員長。良かったです、これで咬み殺されたりしたら本当に理不尽が過ぎますから。

「…これ、夕方には戻るって言ったよね?」
「ああ、そうだぞ。だからそれまでは…」

チラ、と私に目をやるリボーン。ちなみに現在私の腕の中にいるので、ちょっとした上目遣いになります。あ、可愛いかも。
まあ凪ちゃんには劣りますがね。

「…まあ精々楽しんでくれ、雲雀」
「…は?」

凪ちゃんの上目遣いを想像して内心悶えていた私は、一気に現実に引き戻されました。
はい?リボーン、あなたなんて言いました?

「じゃーな」
「あっ、まっ、リボ、」

ぴょん、と私の腕から飛び降りさっそうと出て行く赤ん坊に慌てて手を伸ばしたところで、
くいっ、と襟を引っ張られました。
ちょっ、首苦しいんですけど!なんですかいきなり絞殺ですか?!

「なんで、す…」

文句を言いかけ振り向けば、目の前に委員長のどアップ。
「え、」
「…ねえ」
え、え、なんですか。
「ねえ」
目の前には、やたら整った委員長の顔。唇に吐息がかかりそうな予想外の近さに、口にしかけた文句も引っ込みました。
え、いえ、だって、なんという、か。


「…これ、ホンモノ?」
「はい?」


くい、と耳を引っ張った委員長は、
なぜかとても楽しげに、口元を緩めました。






「ふにゃっ?!」
「くっ……」
「今笑いましたよね、笑ったでしょうこの性悪」
「何か言った?」
「にゅ!…っ、この暴君が……!!」

精神的ダメージが強すぎます。
一体何がどう委員長の琴線に触れたのか、ただいま私は完全に遊ばれています。ソファに腰掛けた委員長の膝の上、そこに座らされあまつさえ耳をいじり倒されています。何これ飛び降りたい。
いじり倒す、といっても引っ張られたり指ピンされたり(かなりの威力)と、けっこうな暴力を伴っています痛いです。何が面白いのかわかりませんが、背後の委員長は先ほどから私の反応を見ながら肩を震わせています。もういいです明日死にます。

驚愕する委員長なんぞで驚いている場合ではありませんでした。群れるのを嫌い人との接触も極力避けるこの暴君が、膝の上に他人を座らせているのだけでも仰天です、天地がひっくり返ります。

ただし問題は、
その上に乗っているのが私だと言う事で。

赤の他人なら面白く眺めさせてもらいますが、これが自分だともう最悪です、死にたいです。社会的に死ぬことはまぬがれそうですが、私の精神が死にました。この数十分だけでかなりの拷問です、あの赤ん坊にはのちにカウンセリングを切望します。

かなり大混乱、というより疲労しきった私の脳内など知りもせず、またも委員長が耳を強く引っ張りました。
「…っ!…あの、ですね、委員ちょ、んん!」
「何?」
「…くっ…後で存分に叩き潰します…ッ」
「できるものならね」
とりあえず口元を押さえることでなんとか声は抑えます。それより後ろでひどく楽しそうですねこの大暴君が。私はこんなに苦しんでいるというのに本当になんて奴でしょう、やっぱり近いうちに叩き潰さなければなりません。

「声我慢しなくていいよ」
「にっ?!」

いきなり強く耳を引っ張られ、私の口から屈辱的な声が飛び出しました。もういやです、明日から登校拒否しても良いでしょうか。いえ良いでしょう。
草壁や他の風紀委員がいないのがせめてもの救いですが、こんな暴君に良いようにされていると思うと涙が出てきそうです。私、なんてカワイソウ。

「…ふふ、かわいいね」
「…くっ、このぼうく……って、は?」


一瞬、聞き間違いかと思いました。


「可愛い」
くっくっ、と笑いながら私の耳に触れる委員長。
首を半分回した私の視界に飛び込むのは、とても楽しそうに微笑む彼の顔。
弧を描く唇に、きらきらと輝く黒の瞳。
……え、ええと、その。
「…委員長」
「なに」
笑みを浮かべた表情のまま、委員長は私を見返します。

いえ何、じゃありませんよなにじゃ。
あなた、今なんて言ったか自覚ないんです?
…あ、もしかして、無い、感じですかね、これ。

「…な、なんでもありません…」
「そう」

うなだれ前に向き直った私に、何とも思ってなさそうな委員長の声。
多分、あれですね。彼は今私のこと、ヒバードやロールと同じく小動物としてしか見てませんね。だから変なこと言ったんですね、わかりました、ハイ。

「…だからって」
「何、唯斗」
「なんでもありま、にゃっ?!」
「ふふ、猫みたい」
「…明日覚えてなっ、んっ!」





元の姿に戻ってから気が付きましたが、別に逃げればよかったんですよね私。
なんでおとなしくとどまっていたんでしょう。馬鹿ですね、なんででしょうか。自分でもわかりません。
とにかく私の頭には無事人間の耳が戻って来、
委員長は(わかりにくいながら)残念そうでした。





「…赤ん坊」
「どーした雲雀」
「なかなか悪くなかったよ、この前の」
「なら、またそのうち試してやるのも悪くねーな」




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