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Happy Valentine's Day!(雲雀恭弥の場合)
・雲雀恭弥の場合



「よ、風紀委員長サマ」
「君はノックをするって事を知らないの?」
「ノックしなきゃ不味い事でもしてんのか?」
「してる訳ないでしょ、で、何の用。君が来るなんて珍しいね」
「チョコ」
「………は?」
「作りすぎて余ったんだけど、良かったら食べてくれない」
「……あぁ、そう。作りすぎたって、誰に」
「雛乃」
「…だろうね」
「で、食うの食わないの、チョコ」
「…でも、それが口実っていう可能性もあるよね」
「……はい?」
「僕にチョコを渡したくて作ったけど、素直に渡すワケにはいかないから、体の良い口実を、って」
「……は」
「…ならお返しは」
机越し、
伸びた腕に顎をくいっとあげられた。
「…これでいいよね」
雲雀の綺麗な顔が近付く。
咄嗟に押し返そうとした腕は、雲雀の片手に押さえられていた。
眼前に迫った綺麗な黒の瞳に、
思わず息を飲んだ、
次の瞬間、

「……なんて、冗談」

するりと手が離れた。
「……は?」
「僕はそんな悪い趣味してないよ」
あとついでに、そんなタチの悪い勘違いもしないし。
さらりと付け加え、椅子に座り直した雲雀を見つめ、
雛香は思いっきり剣呑な声を出した。
「…てめ、おい」
「なあに」
チョコは置いてってよ?
まるで何事もなかったかのように淡々と言う雲雀に、
「…ホワイトデー、楽しみにしてろよお前」
叩きつけるようにしてチョコを置き、
雛香は足音も荒く出て行くと、応接室のドアを勢い良く閉めた。


結構な音を立てて閉まったドアを眺め、
唇を指でなぞる。
「…あのままキスしてしまえば良かったかな」
間違いなく拒むと思っていたのに、
意外にもあっさり力を抜くから、
むしろこっちが緊張してしまった。
「…本当に、君は」
面白いね。
机の端に置かれたチョコの白い無機質な箱を丁寧に開封する。
仕切りに綺麗に収められたサイコロ型のチョコを1つ手にとって、
口の中に入れた。
途端、広がる惚けるような甘さ。
「…ホワイトデー、ね」
今度は、
唇を重ねてみようか。
ついでにチョコを口に押し込んで。


唇に残る甘みを舐め上げて、
くすり、
と雲雀は微かに笑った。


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