I want to bite you to death! | ナノ
既視感(雲雀)
・「思い出を作ろう」と関連あり
・変わる前の未来






『…って訳で、……仕事入れんなよ雲雀』
『は……で?…なんて……ないよ』
『だっから!……突っかかんなって…!』


ぼんやり、聞き覚えのある声がした。


『…まあ、行って……ことも…。どうせ…休暇を取りたいと……からね』
『よっしゃ!……な』


よく、知っている声がする。
ひどく、懐かしさすら感じるような、この声。
自分も何か答えているようだが、よくわからない。







目を開けた。
真っ暗な天井が見えた。
ぼんやりと見つめ、まばたきをする。
ゆっくり体を起こしてみれば、時計の針はまだ夜明けのはじめにも差し掛かっていなかった。

「……いまの、は」

呟いた途端、
ぽたん、と何かが手の甲に落ちた。

え?

訳がわからず、手元を見る。
夜目の利いてきた視界の中、
白い手の上に落ちたのは、透明な雫だった。

「……は…?」

あぜんとする。
信じられない思いで目元を拭えば、
しかし確かに、頬に冷たいものが触れた。

「な、んで…」

なぜ。
なぜ、自分は泣いているのか。
訳がわからず濡れた手の甲を見つめた瞬間、

ふいに、
声が響いた。



『…嘘吐き』



「…?!」
目を開く。
頭を抱え、どくどくと脈打つ胸中に動揺する。
いまの、声…。


『…だから、旅行なんて行ったのかい』


視界が、切り裂かれる。
見えたのは、眩しいほどの明るい風景。
昼?
目に痛い緑を背景に、
目の前に黒々と光る、大きな大きな、


「!」


棺桶。



『これで、最後だとわかっていたから』



声が響く。
体内から聞こえる。
雲雀が口を開くとほぼ同時、

声が、二重に響いた。


「『雛香』」







「…っ!」
目を開けた。
真っ暗な天井が見えた。
ぼんやりと見つめ、まばたきをする。
ゆっくり体を起こしてみれば、時計の針はまだ夜明けのはじめにも差し掛かっていなかった。

「……いまの、は」

呟き、はっと目元に手をやる。
だがそこは冷たく乾いていて、
涙の跡など欠片も無かった。


「……夢…?」





それは、おそらく。
叶わなかった未来と、
有り得るはずのない、過去の交錯。

いつかの、そして誰かの、
苦く悲しい思い出。


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