I want to bite you to death! | ナノ
不変(白蘭)
・未来編前
・10年後




ごぼっ。
およそ人間の口から出る音ではない音とともに、
黒髪の彼はよろめき壁に背を預け、ずるずるともたれかかる。
その口から零れた血液が、足元に広がった。

「…君は、どの世界でも変わらないね」
呟き、白蘭は静かに槍をかまえた。
先ほど足元に落ちていたのを拾ったやつだ。どの部下の物かは知らない。皆もう死んでいるからだ。

「…なんであんたが俺を狙うか知らないけど…俺は、行かない。あんたの、とこ、には」

はっ、と挑発的に笑んだ黒い瞳が、
刹那、痛々しげにゆがむ。

「ぐっ、あ…げほっ、」

びしゃびしゃ、口と腹、同時に溢れ出した血が、
その全身を濡らし、伝い、足元に血だまりを作る。
致命傷、だった。
わかっていた。
わかった時点で、白蘭は足元の槍を拾ったのだ。

「…どうしてなの、雛香ちゃん…」
「…俺が、聞きたい、ね」
黒い瞳が、きらりと光り細まる。
「…なんで、あんたが…俺を、知ってんのか」
自らの手で己の腹を深々と突き刺したナイフは、
見ていられないほどドス黒く赤く染まっていた。

「……僕は、ただ…」

言い掛けた瞬間、
がくん、と崩れ落ちる彼の体。

「!雛香ちゃ、」
「寄るな!」

鼓膜を打った声に、思わず足が止まった。
ヒュウ、と嫌な音を喉から立てながら、
しかしゆっくり立ち上がった彼は、こちらをまっすぐに見据える。

「…あんたの、情けなんか、いらない」

死ぬなら、己の手で死ぬさ。







「…これで、2桁を超えちゃったよ」
呟き、白蘭は足元の少年を見下ろす。
真っ赤に広がる血だまりの底、
瞼を下ろし横たわる、けして大きくない華奢な身体。


『俺は、あんたの元には行かない』


「……雛香、ちゃん…」

どうしてだろう。
何度何回世界を飛んでも、
君は似たような結末を迎えてしまう、だなんて。
そんなこと。


『…俺は、あんたなんて知らない』


「…そっか」
知らない、からか。
僕の事を知らないから、
だから君は、自分を拒絶し同じ道を選ぶ。
自分が惹かれ好んだ、あのまっすぐな瞳をたずさえたまま。

「…なら、"僕を知っている"君なら…」

呟く。膝を折る。
足元で横たわる、小柄な身体を抱きかかえた。
己の白い隊員服に赤い汚れがべっとりと付着するのもかまわずぎゅっと抱きしめ、白蘭は目を閉じた。


「……雛香ちゃん」


ねえ、お願いだから。
次の世界こそ、どうか僕と一緒にいて。


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