I want to bite you to death! | ナノ
男子によるタイプ話(上)
全ては山本のひとことから始まった。



「雛香ってどんな子がタイプなんだ?」




「……は?」
雛香の箸の動きが止まり、その間からぽろりと卵焼きがこぼれ落ちる。
口を開けて待機していた雛乃は目の前でおかずを落とされ、不満の声をあげた。
「雛香ー!」
「あっごめん、雛乃」
「いいよ、その代わり唐揚げとウインナー追加ね」
「宮野、てめぇどんだけ食べさせてもらえば気がすむんだよ…仮にも兄貴だろ」
にこにこしながら何気なく要求する雛乃に、獄寺が引いた目付きで口を挟む。
「ほんとだよね…雛香君も、いくら弟だからって嫌なことは嫌だって言った方が…」
「オッケー唐揚げとウインナーな。トマトとブロッコリーも追加するけどどう?」
「やったー、ありがと雛香!」
「アッ空気読めてないのって俺?」
雛香の事を思って言った言葉の不必要性をひしひしと感じ、ツナは乾いた笑いをこぼした。


「…で、タイプの話は?」


そこへ、再び冒頭の山本の言葉。
「……えー」
雛乃の口に唐揚げを運びながら、んー、と眉を寄せる雛香。
「…んなこと言われてもな…そう言う山本はどーなんだ」
「え、俺?」
全員の視線が山本へ集中する。
もっとも雛乃は箸先の唐揚げしか見ていなかったが。

「…んー、俺は明るくて元気な子がいいかなー」
「「「あー…」」」

「えっなんだよその返事ー」

なるほど山本らしい、と獄寺でさえかすかながら頷いている。
いつでも明るい天然な目の前の男には、確かにそんな相手がお似合いかもしれない。
「なら獄寺は?」
「は?俺?」
んなバカらしいこと、と顔をしかめた獄寺に、ウインナーをつまんだ雛香がにや、と口角を上げた。

「獄寺はビアンキみたいなセクシー姉さんが趣味だそうでーす」
「はっ?!何言ってんだてめぇ!」
「おっと!雛乃、ちょっとウインナーお預けで」
「ええっ、雛香!おかずはー?!」
「ふっ、2人とも、お弁当食べながら武器出さないで!」

勢いよくダイナマイトを放る獄寺、そしてナイフで全ての導火線を切り落とす雛香に、雛乃とツナが同時に抗議の声をあげた。
もっとも、抗議の中身にはかなりの差異があったが。

「2人とも仲が良いのはいーけどよ、ほらストップストップ」
「「チッ」」
朗らかに割り込んだ山本に、雛香と獄寺が同時に舌打ちをしながら引き下がった。
「てめ…」
「お前…」
何同時に舌打ちしてんだよ、と睨み合い再び不穏な空気になる2人に、慌ててツナは声をあげた。

「そっ、それで!獄寺君のタイプは?」
「えっ?じゅっ、10代目、何を…」
「ほ、ほら、可愛い子とか優しい子とか笑顔が素敵な子とか…なんかあるでしょ?」
「それツナの大好きな京子ちゃんの事じゃないの」
「うわあぁあああ!雛香君!!」

なんでそういうこと言うかな?!と顔を真っ赤にするツナに、ウブだねえ、と笑う雛香。

「俺の、タイプっすか…?」
「え、あ、うん!」

いまだ頬を紅潮させたままのツナは、獄寺の呟きにあたふたと振り返る。
だが顎に手をやり考え込む獄寺は、そんなこちらの様子に気が付いていないようで、ツナは眉をひそめて口を閉ざした。


「ご、獄寺君…?」


真剣に考えているらしき獄寺に、雛香はもちろん、さすがの雛乃もウインナーから目を離して息を呑んだその時ー。


「っだあぁあああああ!!見んな宮野!!!!」
「は、俺っ?!」


名字を呼ばれた双子がとっさに身構えたその瞬間、きっちり雛香だけを狙って飛んでくるダイナマイト(増量ver.)。

「っんで俺だけ投げるんだよ?!いや雛乃に投げたら殺すけど!」
「うるっせえよ!てめぇのせいだ!」
「はぁ?!」

ぎゃーぎゃー喚きだした2人に、ツナを始めとする他の面子はもはやぽかんとする他ない。


(雛香の顔が浮かんできたとか…言えるか馬鹿野郎…!)


そして獄寺の内心も誰にも悟られることは無いまま。



「…そっ、それで、結局雛香君のタイプは?!」
「えー…だって俺、雛乃以外に興味湧かないし」
「そこは興味持ってよ!」
年頃の男子が言うセリフでは無い。
「え、でもこの前雛香言ってなかったっけ?」
やっとウインナーにありつけ、ご機嫌の雛乃がふと首をかしげる。
「は?何が?」
「ほらー、雲雀さんタイプだって」



凍りつく空気。



「……ちょっと待て雛乃!その発言には重大なミスがある!」
「ひっ…雲雀さんーー?!」
「雛香…タイプ、なのか…」
「雲雀が…タイプ…」

珍しくかなり焦った顔で叫び出す雛香に、
叫ぶツナ、目を見開く山本、呆然とする獄寺。

「違う!勘違いするな!」
「え、違わないでしょ、そう言ってたじゃんー」
「待て雛乃!その発言をもう少し詳しく思い出せ!」
「雲雀さんのどこらへんがー?!!」
「雛香、それってタイプなんだよな?好きじゃないよな?」
「雲雀が、タイプ…」
もはや収集が付かない事態。

で、
そこへ。


「煩いよ、君達」


さらに事態をややこしくする、


「咬み殺されたいの?」



大暴君がやって来た。




- ナノ -