I want to bite you to death! | ナノ
遠い日の回想(骸)
・シリアス
・雛香と骸、番外編



「何、お前」


東洋系の顔立ちをしたその少年は、

ずいぶんと荒んだ目をしていた。





「…君は、ここで何を?」
聞きながら、周囲に目を走らせる。
狭い路地裏、
倒れているのは複数の男と、
少量ながら血の跡と。
「…愚問だな」
チッ、と小さく何かが弾かれたような音がした。
それが少年の舌打ちだということに、
骸は数瞬遅れて気が付く。
「…よごれた」
「…は?」
見れば、彼は忌々しそうにナイフを空にかざしていた。
僅かに射し込む日光にギラリと光る、
鈍い赤色。
「…うまくやったつもりだったんだけどな」
もう1度、舌打ち。
こちらの存在を無視して小さく響いたそれに、
しかし骸はあまり悪い気はしなかった。
むしろ、愉快にすら思えた。
「…とどめを刺さないんです?」
聞けば、少年は不思議そうにこちらを見た。
視線をこちらから外さずに軽くかがみ、倒れている男の服でナイフをぬぐう。
「…とどめ?」
「まだ生きてるじゃないですか」
ほら、と骸が指差した先では、男の小指がピクピクと痙攣していた。
他に倒れている数人も同じこと。
だが少年は立ち上がると、軽く前髪を指で払って淡々と言った。
「殺しはしない」
「…ほう」
「植物状態になってくれれば大歓迎」
「…まあ、あと数時間放置されればそうなるでしょうが」
少年は目を合わせない。
目深にかぶったフードは、気まぐれな風にさらされても少しも揺れはしなかった。
その下、鋭い光を宿す瞳もまた同じく。

荒んでいる、だが、
揺れない視線。

「……僕は、六道骸と言います」
「……は」
「君の名前は?」

問われ、戸惑ったようにこちらへ首を向ける彼。
初めて、目が合った。


「……雛香」
「………雛香?」
「そう。宮野、雛香」


じゃあね、六道骸。

ひらり、彼はそのまま身を翻すと。
ちらとも振り返らず、路地裏の先へ姿を消した。



「……宮野雛香、ですか」
ちっ、と舌を鳴らしてみる。
けれど湿っぽい音が鳴っただけで、
彼のような軽やかな音には少しも聞こえない。
「…もう少し、接触してみましょうか」
契約しておいて、損はないかもしれない。
始めは、そんな思いからだった。
それが、いつしか。





(宮野、雛香…)

遠い遠い、
深く暗いその場所で。


(…Arrivederci)


また、いつか。
ここから、出られるその日まで。



これは、回想。
彼と初めて会った、
ひどく悲しく狂おしい、遠いその日の、
回想。



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