第三話「犬まろと猫きよ」


ぬらりは来た時と同じように黙々と歩いていた。

未来はなんとか話をしようとしたが

なにを話したらいいのか分からずに

ぬらりの後を付いていった。

「大王様は…」

「え?」

ぬらりは急に立ち止まり、未来の方を振り返った。

「貴女のことを気にしていました。

 妖魔界に突然呼んで戸惑わないか、と」

「そう、だったのですか」

あの優しそうな方なら、そうなのだろうと未来は思えた。

「それに、私は一つ言い忘れていました」

しっかりと未来の目を見て、ぬらりは言った。

「貴女が呼ばれたのは

 先程説明したように霊力が高いからですが

 誰でもよかったというわけではありません」

ぬらりの瞳はさっきよりも親しみをこめていた。

「霊力が高い人の中から一生懸命生きている貴女を

 大王様はお選びになったのです」

「そうなのですか?」

それは未来にとっては嬉しいことだった。

「ええ、大王様も私も貴女でよかったと思っています」

それを聞いて未来は少しほっとした。

ただ霊力が高いだけなら悲しかっただろう。

それにぬらりとは打ち解けられたと思えた。

「貴女の部屋は先程と同じです。

 行きましょう」


ぬらりが言っていたように

二人は未来が目覚めた部屋の扉を開けた。

そこにはさっき未来を呼びに来た

ぬいぐるみのような2匹がいた。

「あ、ぬらりひょん様!」

「仰られた通り、未来様に必要なものは

 我々と侍女が用意をしておきました」

恭しく2匹は言った。

「ご苦労!

 ああ、紹介がまだでしたね。

 私の部下の犬まろと猫きよです」

未来を振り返り、そうぬらりは2匹を紹介した。

「初めまして」

未来は腰を屈めて挨拶をした。

「畏れ多いお言葉です」

「ぬらりひょん様はご多忙なため

 ご用事は私たちにお任せください!」

犬まろたちは嬉しそうにそう口々にした。

「もう下がっていい、未来様はお疲れだ」

「はは!」

2匹は慌てて部屋を出た。

にぎやかな2匹がいなくなると急に静かになった。

「それでは、私もこれで」

ぬらりは頭を軽く下げると、部屋を出ようとした。

「あ、待ってください!」

未来は気が付いたら、ぬらりの腕をつかんでいた。

「どうなされました?」

ぬらりは少し驚いたような顔をした。

「私のこと、様付けしなくていいです。

 敬語も無理に使わないでください」

未来はいきなり未来様と呼ばれ

居心地が悪かったのだ。

「それはなりません。

 貴女は大王様の婚約者です」

ぬらりは、やれやれと言うような笑みを浮かべた。

「それよりも私への敬語をやめてください。

 私はそのような立場ではありません」

キッパリとぬらりは言った。

「分かった。

 いつかは親しく話してね」

「ええ。いつか、ですね」

ぬらりは、今まで未来が見たなかで一番の笑顔を浮かべた。

「今日は色々あり、お疲れでしょう。

 ゆっくりお休みください」

「わかった、ありがとう」

未来は軽く手を振り、部屋を見渡してなにをしようか考えた。

「未来様…」

そんな彼女にぬらりは優しく声をかけた。

未来は不思議そうに振り返る。

「何度も言いますが戸惑っていることでしょう。

 ですが、私がいます」

「ぬらり…」

「用事がなくても呼んでかまいません。

 話し相手くらいにはなれます」

「…ありがとう」

やっと未来はその言葉で安心できた。

「それでは、失礼いたします」

ぬらりは部屋をあとにしたが

未来は閉まった扉をしばらく見つめていた。


to be continued







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