第二話「謁見」


未来とぬらりひょんは

広い廊下を歩いていた。

ぬらりひょんのコツコツという足音だけが響く。

「あの、ぬらりひょんさん…」

沈黙に耐えきれず未来は呼びかけた。

「私の事はぬらりでいいですよ、未来様」

ぬらりは初めて微笑んだ。

「じゃあ、ぬらり。

 私、自分の名前以外記憶がないんです」

少し冷静になり思い出そうとしても

記憶は何も出てこなかった。

「貴女は人間界から突然霊力で

 無理に呼び出してしまいました。

 徐々に思い出すでしょう」

ぬらりは前を見ながら話した。

(今はとりあえず彼を信じよう)

なぜ自分がこんなところにいるのか

未だに納得がいかなかったけれど

不思議と気持ちは落ち着いていた。


「こちらです」

目の前には一番きらびやかなドアがあった。

「エンマ大王、未来様をお連れしました」

そう言うとギーと音をたててドアが開いた。

「失礼します」

ぬらりは頭をさげて謁見室に入った。

未来も真似をして

恐る恐る部屋の中へと足を進めた。

玉座にいた人物は金髪に赤い服を着ていた。

(この方がエンマ大王様?!)

エンマ大王様は想像と違い

少年と思われる風格をしていた。

「ほう…お前が未来か。

 いきなり妖魔界に連れてこられて

 びっくりしただろ?」

「は、はい」

未来は戸惑いながらも素直に答えた。

「そんなにかたくなるなよ

 俺の妻になるんだからな」

エンマ大王は笑いながら玉座から未来に近づいた。

「俺が怖いか?」

「あ、あの…」

突然のことに未来は戸惑った。

「大王様、未来様が困ってしまってますよ」

ぬらりはまるで父親のように優しく言った。

ぬらりの方が年上みたいだし

堅苦しくない関係なのだろうと未来は思った。

「確かにそうだな」

エンマ大王はまた笑うと玉座に戻った。

「突然のことで不安だろう?

 すまなかったな」

エンマ大王からからかいの表情が消え

真剣な眼差しで未来を見た。

「一ヵ月だ!」

「え?」

「一ヵ月、ここに住んで

 俺と結婚していいと思ったら妻になれ!

 嫌なら元の世界に帰ればいい」

「本当ですか?」

エンマ大王の提案に未来は胸を撫で下ろした。

いきなり結婚とか妻とか、戸惑わないはずがない。

「エンマ大王、それは…」

ぬらりが反対の声をあげようとしたが

エンマ大王は手でそれを制した。

「いいんだ、ぬらり。

 未来を悲しませてまで結婚したくないしな」

そう言うとエンマ大王は未来を見た。

「一ヶ月、ここで楽しく暮らせばいい。

 ぬらりを世話役にするから、なんでも言え」

「は、はい!」

大王の強い言葉に逆らう気も起きずに

未来は頷いた。

「さて、俺は仕事を片付けなければならない。

 ぬらり、あとは任せた」

「は!

 未来様、こちらに」

ぬらりは付いてこいと言うかのように謁見室を出ようとして

未来は急いでぬらりの後をついていった。


to be continued







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