第七話「誘拐 その2」


薄暗い中

未来は目を覚ました。

なにか大きな物に

体を縛られていて

頭痛がしたが

あたりを見回してみた。

しかし、水音や定期的に聞こえる

ガコンガコン

という音は聞こえたが

視界には闇ばかりだった。

「気がついたか?」

すると声が聞こえた。

あまりにも近くで

未来の身がこわばった。

「あなたは?」

身体は拘束されていたが

口はふさがれておらず

未来は言った。

暗闇に目が慣れてくると

それはトカゲのような妖怪だった。

「俺はしがない妖怪さ。

だが、お前は

エンマ大王達の大事な人間。

たっぷり身代金をもらってやる」

「お金なんかのために

こんなことをしているの?」

未来が聞くと

妖怪はニヤリと笑った。

「そうさ。それの何が悪い。

お前は屋敷でのうのうと

暮らしているから

わからないだけさ」

未来は妖怪をにらみつけた。

「にらむなよ。

もうじきお前の助けが来るだろう」

「助け?」

「ああ、金を持ってな」

クククと妖怪は笑った。


それから未来も妖怪も

何も話さずに時だけが過ぎた。

一時なのか随分時間がたったのか

未来にはわからなくなった頃

コツンコツンと靴の音が聞こえた。

「おでましだ」

妖怪はそう言うと

小屋の扉を音をたてながら開けた。

突然の光の中、そこにいたのは…

「ぬらり!」

白銀の長髪に黒い和服。

見間違うことない愛しい人がいた。

「未来!無事か!」

名前を呼んだぬらりは

未来に近づこうとしたが

妖怪がそれを阻止した。

「側近をよこすとは

大王になめられたもんだな」

未来とぬらりの間に

妖怪が割って入った。

「そこをどけ!」

ぬらりは杖に手をかけ

いつでも抜けるようにした。

「どいてほしいなら、金をよこしな!」

「お前にやる金などない。

今すぐ未来をかえさなければ

痛い目を見てもらうしかない」

毅然とぬらりは言った。

「そう言うだろうと思ったさ」

しかし、妖怪は笑うだけだった。

「だが未来が人質てことを忘れるな。

今、俺を攻撃すれば未来にもあたるぜ?」

「…」

ぬらりは遂に杖を引き抜き

ためらわずに杖を光らせた。

すると妖怪の周りに帯状の光が出現した。

「なっ!」

「それは結界だ。

動くこともできまい」

そう言うとぬらりは妖怪の真横を通り

未来の縄をほどいた。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

助けに来てくれたのと

安心した気持ちで

未来は泣きそうになった。

「ぬらり、ごめんなさい。

私なんかのために…」

「“なんか”なんて言わないでくれ。

私の大事な人だ」

ぬらりは微笑んだ。

「おい、俺を忘れるな!」

そう叫んだ妖怪は

結界で自由が制限されているなか

なにかのスイッチらしきものを取り出した。

「それは?!」

ぬらりが聞くと妖怪はニヤリと笑った。

「この小屋には爆薬が仕掛けてある。

スイッチを押せば

小屋ごと吹き飛ぶぜ」

「そんなことしたら

あなたもただじゃ済まないわ」

未来の鼓動が高まった。

「金が手に入らなければ

死んでも構わないさ」

妖怪はただ笑っていた。

まるで死ぬのを楽しみにしているように。

「やめて!お願い!」

未来は叫んだが

妖怪はスイッチを押した。

「未来!」

ぬらりが叫び、杖が光った。


「きゃ!」

未来は芝生に転がった。

その瞬間、小屋が爆発した。

「間一髪だったな」

隣でぬらりが呟いた。

「あの妖怪は?」

「私は転移の技は心得てなかった。

ただ未来を助けたいと思ったら

ここにいた。

恐らくは…」

ぬらりと未来は亡くなった妖怪に

同情した。

「こんなこと

しなければ生きられたのに」

二人はしばらく

爆発した小屋を見ていた。

町の妖怪が何事かと遠巻きに見ていた。


「未来様!」

屋敷に帰ると春日が扉の前で待っていた。

エンマ大王も一緒だった。

「待ちくたびれたぜ。

無事でなによりだ」

心からの笑顔でエンマ大王は言った。

「ご心配をおかけしました」

心配をかけたと実感し

未来は申し訳ない気持ちで

いっぱいだった。

「お前のせいじゃないだろ?

さあ、中へ入ろうぜ」

エンマ大王は扉を開けて屋敷に入った。

春日もそれに続いた。

しかしぬらりは立ったままだった。

「ぬらり?」

不思議に思い

未来はぬらりの顔をのぞきこんだ。

「未来…本当に無事でよかった」

やっと安心したという顔でぬらりは口を開いた。

「うん…

私ぬらりが助けに来てくれるって信じてた」

二人はお互いに見つめあった。

エンマ大王たちは姿を消していた。

「これから、なにがあっても

今日みたいに守り抜いてみせる。

だから、そばにいてくれ」

「うん、そばにいてください」

未来は笑い

ぬらりは未来を抱きしめた。

愛しいという気持ちが

ぬらりの中でどんどん溢れていった。


to be continued







素材はデコヤ様のものを加工しております。