第六話「誘拐 その1」


未来は春日に言われて

城下町まで一人で買い物に来ていた。

(この町にも、だいぶ慣れたな)

そんな事を考えながら

渡されたメモの通りに買っていく。

「ん?」

買い物袋を抱えながら

店と店の間の薄暗い小道に

妖怪がうずくまっているのに気づいた。

「どうしたんですか?」

ためらわず未来は小道に入り

声をかけた。

「…」

しかしその妖怪は返事をしなかった。

「大丈夫ですか?」

未来は心配になり、更に近づいた。

すると…

「動くな!」

まるで今までうずくまっていたのが

嘘のように素早くその妖怪は

立ち上がり

布で未来の口をふさいだ。

「んん!」

突然の出来事に未来はパニックになったが

暴れて抵抗を試みた。

しかし、布からする薬品の臭いのせいか

どんどん体から力が抜け

意識が遠のいていった。

未来はそのまま意識を失った。


「エンマ大王!」

春日は慌ててエンマ大王の執務室に入った。

「どうした、春日?

そんなに慌てて」

「未来様が、未来様が

買い物から帰ってこないのです。

もうだいぶ時間が経つのに!」

「なんだって?!」

エンマ大王の隣で

書類を整理していたねらりが

手を止めて立ち上がった。

真面目な彼女が

道草をするとは考えられなかった。

「一体、どこに…」

エンマ大王は呆然とするしかなかった。

するとシュッと音をたてて

エンマ大王の隣の書物に

弓矢が刺さった。

「うお!なんだ?」

「矢文か?!」

ぬらりが言ったように

矢には文と思われる紙が縛ってあった。

「なんだと?!」

文を読んだエンマ大王は絶句した。

「文にはなんと…?」

春日も近づき文を覗きこんだ。

「これは!!」

三人は文を見つめて動けなかった。

『未来は預かっている。

返して欲しくば身代金十億銭を持ち

町の外れの水車小屋に来るがいい』

それは脅迫状だった。

「そんな、未来様…」

春日は頬に両手をあてた。

「…」

するとぬらりは扉に向けて

歩き始めた。

「ぬらり!どこに行く?!」

「決まっています。

未来を助けにいきます」

「待て、一人で行くつもりか?!」

「エンマ大王とものあろうお方が

こんな危険なことに

首を突っ込んではいけません」

振り返らずにぬらりは言った。

「だが、未来は…!」

「大丈夫です。

それに、私は貴方の側近。

簡単にはやられません」

ぬらりはそれだけ言うと

部屋を出ていった。

この身よりも大切な人を

救いに行くために。


to be continued







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