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 その図書室では六人の人が顔をつきあわせていた。
「さて、君たち、今日から他校から交流会で人が来る」
「常先輩の友達の代理なんですよね」
「そや、しーちゃん曰く優しい子だから大丈夫やと言いよった」
「まあ、優しい子かどうかは良いんだよ。ただね、よくないことが一つあって」
「なんですか、先輩」
「君たち、他校から人が来るんだから行動にはくれぐれも気を付けてね。
 倉田ちゃん、本読むのに夢中になりすぎないように。
 江渕ちゃん、周りを苛めるのは少し控えめにね。
 中平ちゃん、くれぐれも喧嘩だけは仕掛けないように。ちなみに喧嘩相手が襲ってくることもないように。
 常、ツッコミはほどほどにね。
 で、持って山岡ちゃん、お願いだから変な行動+惚けないでね」
「善処するき」
「頑張ります」
「うーーん。取り敢えずは言っていっとくさ」
「了解」
「……なんか私だけみんなとちがくないですか。なんか私だけみんなよりも強く言われてないですか」
「僕は他もそうだけど、特に君は心配なんだよ。お願いだから机の角で足を打たないでね。周りを見ないで本棚にぶつかったりしないでね。椅子に足を絡ませて転けたりしないでね。先生と先輩を言い間違えないでね。言い間違えても一回で訂正してね。先輩と先生何を言ってるのか分からないようにならないでね。分かった」
「……善処します」
「宜しく頼むよ。ぁ、それから風邪引かないようにね。他校の人に移したら駄目だから」
「分かってます」
「そう。ならもう少しで下井ちゃんが連れてくるはずだから君たち、少し待ってなさい」
「はーーい」
  図書室に沈黙が流れた。数人が緊張していることが分かる。その緊張を打ち破るべく扉が開いた。
「失礼します。連れてきました先輩」
「ぁ、ご苦労様。下井ちゃん。で、こんにちは」
 にっこりと挨拶した少年に返ってきたのは無反応だった。視線だけは合わされたがそれもすぐに逸らされる。何処を見るでもなく下を向いた目には恥ずかしさとかそう言うのは一切なかった。ただ単純にめんどくさいという多いだけが少年達にはくみ取れた。
「えっと、取り敢えず、自己紹介しようか。僕は小柴裕太。二年生でここの副部長だよ。はい、常」
「ほい。わたしゃあ、2年の常原楓や。文芸部との掛け持ちでやりゆう。しーちゃんとは去年であってその関係で交流会やらせてもらいゆう。はい、一年生」
「1年生の下井真里阿。部活はこれの他に水泳部、同好会はぬうん部、走研部、それから生徒委員会書記をやている」
「一年生の山岡沙魔敷猫。みんなはさーって呼ぶから、呼んで良いよ。普通に呼ぶと長いし」
「一年生の中平千。性別、男に生まれたかった女」
「いらないよ、その一文」
「あたしは1年生の江渕鈴果」
「1年生の倉田亜梨吹です」
 ここまで自己紹介は進んだが、入ってきた少年、蓮は顔を上げて相手を見ることはなかった。一番最後の人を覗いて。
「ありす……」
 本当に小さな声でその名は呼ばれた。その名の主と蓮の眼が会い、その名の主は顔を驚きで染めた。
「倉田ちゃん、どうした?」
「え、あ、何でもないです」
 早口でまくし立てられるそれを蓮が見ていた。
「君の名前は?」
 蓮に聞いてくるのを下を向いて答える。
「尾神」
 その続きは暫く待っても訪れなかった。困ったように小柴と名乗った少年が笑い、周りはみんな引きつった笑顔を浮かべた。



不意に昨日の記憶をその人は思い出した。

 忘れようとしても忘れられない嫌な記憶。
 その一番最初にいたある人を見て、心臓が鷲掴みされた感覚がした。恐怖で身体震えてくる。一瞬だけあった気がした目が刃のように感じられた。
それでも匂いが匂ってくる。甘い匂い。おいしそうな甘ったるい匂い。
 駄目だと思っているのにぐるぐるぐるとお腹の音が鳴る。誰も聞いてもいないのに誤魔化すように笑う。無意識のうちにした舌なめずりを気付かれないウチに止めた。
 そして気付かれないように言葉を漏らす
「甘い。良い匂い」
 かぐわしい匂いが鼻腔を満たす
 人工的な匂いではない優しい自然の匂い。
 心からあふれ出しているようなそんな匂い。
「甘い」
甘い。とにかく甘い。鼻腔いっぱいに広がる甘い匂い。甘すぎるほど甘い匂い。
「お腹空いた」
 口に出した言葉はだしてはいけない言葉。







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