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「はい、これ」

 笑顔で渡された手紙と資料を見て少年、尾神蓮は目を瞬かせた。
「何ですか、これ」
「あのね、一年前知り合った葉水学園文芸部の友達から一週間交流会としてうちの部活の見学に来ないかって誘われたの。そのこと事態は前から話し合っていたことで良いことなんだけど、日にちがね。明日から一週間なんだけど、私都合が合わなくてね。向こうの方も先生とかと都合を合わせるのに戸惑って急なことになってすまないって謝ってくれてるんだけど。まあ、でも、断るのも嫌だし、それにその子もう一つ部活してて主にそこの活動を見ることになるんだけど、そこが面白いところらしいから興味があるし、だから、私はいけないけど部員であるあなたに言って貰おうと思って」
 にこっと笑って一気にまくし立てた少女の話を聞き終えた蓮は半目で見ていた。その手に机におかれた水の入ったペットボトルを取りながら。
「蓮君。水をくれないかな」
「……」
 無言で差し出されたペットボトルを少女がごくごくと飲む。少女からおっさん臭い声が漏れた。
「喋った後の水はおいしいよ。で、お願いね、蓮君」
「何で、俺が」
「君が我ら文芸部の数少ない部員だから」
「嫌です」
 答える蓮に少女が困ったような顔を作った。
「そう言われても私にはどうしても外せない用事があってね」
「俺にも用事があります」
「嘘おっしゃい。どうせ用事っていても何処かの公園で本を読むか、本屋で大量の本を買うかのどっちかでしょ。この私を舐めるんじゃないよ。四ヶ月も一緒にいて蓮君の行動パターンなどお見通しになったわ。君は誰とも話さないし、遊ばないしで、年中無休の暇人でしょうが。あ、でも一週間に一度はどっかジム行ってるからその日だけは暇人じゃなくなるのか。嫌、でも総合的に見ると君は暇人だよね」
「……」
「言い返す言葉は。……ところで、蓮君。水を……」
「俺は嫌ですからね」
 水を渡しながら自分の意見を言う蓮に水を飲み終わった少女が笑う。
「蓮君。知っているかい」
「何をですか」
「部長の命令は絶対なんだよ」
 少女は蓮に向けて親指を立てた。
「と言うことで、蓮君よろしくね。くれぐれも向こうの人に粗相のないように。それから活動中はきっと作品を書くことになると思うから。君もちゃんと書くようにね」
「無理です」
「大丈夫だよ」
「書きません」
「君は文芸部だろう」
「まあ、一応文芸部ですが」
「なら出来るよ」
「……」
 蓮は何も言わなかった。




 学校終わり、蓮が訪れたのは何かの施設だった。そこの一つの部屋に入っていく。その部屋は事務室なのか奥に一つの作業用の机があり、手前に客を案内するようのソファとテーブルがあった。
「こんにちは」
「あら、蓮いらっしゃい」
 その女性は奥の机で何かの書類を見ているようだった。女性がソファに座る蓮に対して面白そうに笑う。
「吸血鬼に襲われたそうね」
 聞かれた問いに蓮は一瞬眉を寄せた。
「僕が教えたんだ」
 部屋の中、いきなり男が現れている。
「そう」
「怪我はなかった」
「少し血を吸われた程度。あるとしたら向こうの方」
「あら。そう」
 女性が朗らかに笑う。男も楽しそうにしていた。
「俺はそれよりも別のことで報告しなくちゃいけないことがあるんだけどね」
 蓮がそう言うと二人が不思議な様子で蓮を見た。
「あら、蓮から報告があるなんて珍しいわね」
「と言うか、初めてだよね」
「……明日から一週間、部活の交流会で放課後別の高校に行くことになったから」
「部活? 蓮、部活してたの」
「あれ? 言ってなかったけ。蓮はしてるよ」
「そうなの。良いの、あなたは」
「高校が生徒に部活を入ることを強制しているからね。教師が蓮にその件で色々言うのも面倒だし、許してあげてる。入ってるのは、部員が蓮以外に一名しかいない文芸部だしね」
「ああ。成る程ね。でも文芸部……。活動してないでしょう。蓮」
「そりゃあね」
 本人をおいて好き勝手に言っている二人に蓮は本を取り出した。
「報告、一応したからね」
「ええ。分かったわ。ただ一つ聞いておきたいのだけど、それはどこの高校なの」
「葉水学園です」
「え?」
 二人の動きが固まった。蓮はそれを見た。訝しげに見つめる蓮に二人はのろのろと動き出す・
「そ、うなの」
「おもしろく、ないね」
「どうしたの」
「なにもないわ。気にしないで頂戴」
 曖昧な笑みを女性は浮かべた。








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