紅い月−七つの謎と黒い影−

MISSION*08 



〈何言ッテルノ…?ゲーム?〉

『そうだ。命を懸けて。』


何を言い出すかと思えば、奈緒はメリーさんに向かって命を懸けたゲームをしろと頼んだ。レギュラー達は目を見開いて彼女を見る。


『私が勝てば君は何も出来ずに成仏する。逆に君が勝てば私を好きにしていい。』


彼女の発言に人形はフフフと再び怪しい笑いをした。


〈ソンナノデイイノ…?私ハ何デモ知ッテルノニ?〉

『ああ。』

「無茶っスよ奈緒先輩…!」

『そんなの重々承知だ馬鹿也』

「ばっ…!?」

〈…フゥ〜ン。マァイイワ…可哀想ダカラ内容ト ルール ハ アナタガ決メレバイイ…〉


勝ち誇ったような言い方をするメリーさんに、奈緒は「それはありがたいな」と笑った。それが仇となっても知らないが…と同時に頭の隅で思いつつ小さく深呼吸をする。
置いて話を進められるレギュラー陣は、何も分からず冷や汗を流していた。
奈緒はじゃあ…と呟くと真剣な表情を見せ、答えたのだった。


『ここにいるメンバーの名前をフルネームで答えろ。』

「「は!?」」

〈…ソンナ簡単ナ問題………私ヲ舐メテルノ!?〉

『いや?こちらも内心冷や冷やしてる。フルネームで全員答えられたら私の負けだ。好きにすればいい。』


心配な顔で奈緒を見つめるみんな。奈緒はそんな視線を無視してメリーさんを睨むようにして見ていた。


〈馬鹿ニシナイデヨ…。……イイワ…ドウセ私ガ勝ニ決マッテルケド。…マズ憎タラシイ オ前ハ、神楽奈緒〉

『…正解だ。』

〈当前デショ…神楽家15代目当主ッテコトモ知ッテル。コンナノ容易イワヨ。ワザワザ勝敗ノ見エタ ゲーム ヲ挑ムナンテ馬鹿ネ……隣ノ彼ハ、幸村精市〉

「……正解だよ」

〈真田、弦一郎〉

「…うむ」

〈柳蓮二…〉

「…あぁ、」

〈切原赤也…ネ〉

「……っ、」

〈アナタガ、丸井ブン太…〉

「…アタリ」

〈最後は…柳生比呂志。〉

「…っ!」


全員、言い終わった。沈黙が流れる。メリーさんは「以上よ。」とニヤリと笑いながら奈緒の表情を伺っていた。切原や丸井は震え出す。
レギュラー陣は黙って奈緒を見ていた。


『…ふっ、はは……ははははっ…』


突然笑い出す奈緒。とうとう狂ったのかと驚いた表情で全員が彼女を見つめる。


『残念だがこのゲーム、私の勝ちだ。』

〈…ハァ!? 正気?勝ッタノハ私ヨ…!変ナ冗談言ワナイデ!〉

『正気だし冗談でもない。正真正銘私の勝ちだ。』

〈嘘付カナイデ!! ドコガ勝ッテルノヨ!!!〉


騒ぐメリーさんを見てはぁ、と盛大に溜め息を付く奈緒。未だに刀を首に当てられているフランス人形は動けずに「ッ…」と声漏らした。


『まだ分からないのか。メリーさんとやらも所詮ここまでって所か。これが気付かないなんて案外ショボいもんだ…なぁ仁王』

「何言っとるんじゃ奈緒。メリーさんが凄いんやのぅて、ここまでバレんかった俺が凄いんやき」

「「…は!!? 仁王!?!!?」」

「ぷりっ」


眼鏡を外しながら奈緒に向かって笑いかけたのは、柳生ではなく仁王。カツラを取れば仁王の特徴ある髪が後ろに垂れた。


〈クッ…卑怯ヨ!〉

『卑怯はどっちだ。自分の力を過信し過ぎたな。それに私はここにいるメンバーと言ったんだぞ?ここにいる人間といった覚えはない……私の式の名を、君は口にしたか?』

〈!!!……ッ、〉

『……約束通り君は何もせずに成仏してくれ。』

〈何ヨ…フザケナイデ!!!〉


そう言ってメリーさんは隙をついて刀から離れ、奈緒に襲いかかろうとした。…が。
バシッと言う音と「ギャンッ!!」と言う声が同時に聞こえ、メリーさんは地面に落ちる。そして、その人形の上には足が乗っていた。
足の主は幸村。片手には七不思議攻略と書かれた本。


「「(それで叩き付けたのか…)」」


幸村はメリーさんを踏みつけたまま笑顔で言った。


「約束破ると燃やすよ?」

〈何アンタ!付喪神を踏ミツケルトカ何!?〉

「無駄口叩いても燃やす。」

『……怨念に塗れ、己の魂を自身で穢してしまった君は付喪神なんかじゃない……ただの妖怪と化してしまった怨霊だ』


図書室の気温が一気に下がった。メリーさんもウッと呻き声を漏らす。


「それにしても、よく仁王だって分かったね」


正直俺も分からなかった、と言う幸村に奈緒は「一か八かだったんだけどな…」と呟いた。


『呼び方が違ったんだ。自分で言うのもなんだが、柳生は私を奈緒さんと呼ぶ。けど、七不思議が始まってから神楽さんと呼ばれた。呼び方が苗字から名前に変わることはあっても名前から苗字に変わることは普通ないだろう。』

「ほぅ…柳生の奴、奈緒さんって呼びよったんか…」

『仁王の観察ミスだな…でもそのお蔭で助かった』

「もっと俺に感謝してええんよ奈緒ちゃん」

『図に乗るな殴るぞ。後ちゃん付けはするな気色悪い』


奈緒は調子に乗る仁王を睨みつける。仁王はぴよ、と言いながら顔を背けたのだった。


〈私ヲ ホッタラカサナイデ!!〉

「じゃあ燃やしてあげようか?」

〈…エ、遠慮シトクワ…〉

「そっかー残念。で、成仏してくれるのかい?」

〈ソレハ…ッイダダダダダダ!!!〉


幸村が踏みつける力を強くするとメリーさんはさらに悲鳴を上げた。


〈……私ハ…コンナ目ニ合ウ為ニ捨テラレタンジャナイ…〉


幸村の足の下で呟くように言ったメリーさんをみんなが見た。その言葉を聞いて幸村は足を退ける。


〈…モット、大事ニサレタカッタ…一緒ニ過ゴシタカッタ…〉

『……君にまだその気持ちが残ってれば十分だと思うがな。…なぁ。寂しければ、別に家に来てもいいぞ』

〈…エ?〉

『気の済むまま、家にいていい。…それで君の中にある邪気が取り除けるなら。…大事にされたいんだろ?』

〈トカ言ットイテ後デドウセ捨テルンデショ…〉

『そんな事はしない、絶対に。…別に今すぐって訳じゃない。いつでも待っているから気が向いたら来ればいい』

〈…ほんと?〉

『ああ。待ってる。』


メリーさんは小さく笑った。そして小さな口をカチカチと動かして言った。


〈……ありがとう…〉


全員の目の前で光って消えていった。
メリーさんがいた場所に何かが残る。それは小さな人形の形の硝子細工だった。2と言う数字が掘られている。奈緒はそれを拾うとポケットに突っ込んだ。


《予想外の展開でしたね…》

『自分でも吃驚だ…』


まさかこんな展開になるとはな、と呆然と言う奈緒に水蓮は「流石です我が主…」と苦笑いで返した。


「奈緒先輩!!」

『うおっ!?』


どうしたのか突然切原が奈緒に抱きついた。蒼音のお蔭で体制が付いたのか彼女は転ぶことなくしっかりと受け止める。
切原は若干涙目。それに気付いた奈緒は黙って頭を撫でた。


『赤也。』

「!…はいっス」

『大丈夫だったろ?…私達はクリアして帰る。絶対に死なない』


奈緒はそう言いきった。そんな彼女を見て切原は頬を緩め、はいと答えた。


「奈緒俺も褒めてくれんかの〜」


そう言いながら奈緒にもたれかかったのは仁王。


『……重い。退け。赤也もだ』


そんな彼女の言葉に仁王と元に戻った切原は「えー」と言う顔をする。だが、幸村の「なーにやってるのかなー?」と言う声に一瞬で奈緒から離れたのだった。
馬鹿か…と思っていた奈緒は、あることを思い出し、急いで携帯を開く。タイマーを見ると残り9時間30分をきっていて、2時間半経過していた。


《このペースだとヤバいですね…》

『あぁ。七不思議続行な訳だが……どうする、って聞いても無駄か。本も見つけたし図書室にはもう用はない。トコトコを探し出すぞ』


奈緒の言葉に残りのメンバーがラジャー、と反応する。やっと七不思議の謎が1つ解決したのだった。
図書室を後にし、廊下を歩く奈緒達。ただ静かなだけで何も聞こえてはこなかった。


「これでトコトコより先にテケテケ来たらアウトだな」

「そんなこと言うなよぃフラグ立つから!」


階段を降りる。靴箱の前を通るがいつもと変わらない景色がそこにはあった。だが相変わらず窓の外は薄気味悪い紫色の空が広がっている。


「トコトコっちゅーのは本当におるんか?」

「い、いるんじゃないっスか?いなきゃ対処法なんてねーじゃん!」

『切原うるさい。』

「!先輩何で呼び方戻ってるんスか!!」

『逆に何で名前で呼ばなきゃいけないんだ。』

「えー!嫌っスよ奈緒せんぱーい!やだー」

『…うるさい』

「奈緒先輩ー!可愛い後輩の頼みじゃないっスかー!!」

『あーもう分かったから黙れ!』

《(主が洗脳されてる…)》


テケテケに気付かれたら終わりだぞこれ…と思いながら奈緒は若干ヤケクソで許可を出す。水蓮は苦笑しながらそれを見つめていた。そのお陰で黙らせることは出来たが、今度はその光景を見ていた丸井がずるいと喋り出した。


「奈緒〜俺も下の名前で」

『黙れ』

「いーじゃん同じクラスなんだし!!」

『殴るぞ』

《(後輩と同級生の扱いの差ひでぇな…)》


奈緒は大きな溜息を付く。が、その瞬間何か妖気を感じたのか人差し指を口に付け、しっ!と示した。その場に止まって彼女の方を見つめるレギュラー陣。速いスピードで近くなってくる足音。
レギュラーはその足音が聞こえたのか、冷や汗をかき、息を飲む。たがそれとは逆に奈緒はその音を聞いた後、テケテケではないと判断したため、ふぅ…と小さく息を吐いた。


「ものすごーく近くから奈緒様の声がする〜♪はい!奈緒様発けー………は。」

「ちょっと蒼音ちゃん!急に走るの辞めてよ…ね……え、何で。」

「……。」


その足音の主はこの3人だった。レギュラーを見て紫音はいつも通り無表情だったが、蒼音と雪羅は石よろしく固まってしまった。だが雪羅の方はすぐに元に戻り、吃驚したーと呟く。蒼音は心の底から嫌がるような顔を見せた。何て事を言いながら来てるんだ…と頭を抱えそうな勢いで溜息を付く奈緒。


「蒼音、顔。」


切原に言われてようやく元に戻る蒼音。蒼音はすぐに奈緒の方へ駆け寄り、出会えてよかったですと抱きつこうとした。そんな笑顔の蒼音の行動を予測をしていたのか、奈緒はそれを華麗に避け私もだと返した。


「ところで奈緒ちゃん。七不思議いくつクリアした?」

『1つ。君たちは?』

「…すみません奈緒様。残念ながら私達はまだ1つも…」


申し訳なさそうに言う紫音に「大丈夫だ、出会えたことだし今からが本番だ」と奈緒は答える。そんな奈緒に紫音はこくりと黙って頷いた。
その場で現状況を言い合う。奈緒側の今からする事の話が終わると雪羅があー、と呟いた。


「そう言えばさっきテケテケ見たよ。本当の姿で歩いてたら完全にスルーされちゃった。紫音も猫ちゃんだったしね」

「僕たちあやかしで人間じゃないですもんね。本来の姿だと人に見えないし対象外なんでしょう」

「でも蒼音ちゃんフツーに人型だったじゃん。何言ってんのさ」

「は?馬鹿ですね本来の姿になれる程の広さがないんです。それに水浮かせときゃ人間じゃないことくらいすぐ分かりますよ」

「んだとこら…」

『おい、ここに来てまで喧嘩はやめてくれよ流石に』 



奈緒はこんな場所でも通常運転な2人をやれやれと言った表情で見る。紫音はその場で溜め息を付いた。


『頼もしいが、テケテケと出くわす前に早くトコトコを見つけなければ…』

「奈緒、残念だけどそれは無理そうだね。」

『はぁー……どうやらそのようだな。』


幸村が向いている方に、奈緒もそう返しながら顔を向ける。他の全員もその方を向いた。
ニタァ…と笑うテケテケは、再びこちらに向かって走ってきた。奈緒たちは全力疾走で逃げる。

テケテケテケテケテケテケトコテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケトコトコテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケトコテケテケ


「何か変な音混ざってね!!?」

「確かに…ってええええ!トコトコいるじゃないっすかぁ!!!?」


走りながらテケテケの方に一瞬、目を向けるとトコトコが隣で一緒に走っていた。テケテケは標的を追う一心で隣のトコトコは目に入っていない。
そんな状況を目撃した神楽一行とテニス部レギュラーは走っているのにも関らず、今にも深い溜息を付きそうなほどだった。


「ホントだー並走してるねぇ…馬鹿なのかな?こんなの早く浄化されたいって言ってるようなもんだよ」

『取り敢えずいつまでも走り続けるのはしんどい。アイツらをこっちに来られないようにしてくれ』


奈緒の言葉に蒼音は「承知しました奈緒様」と笑うと、水の壁を作り出し雪羅の名前を呼ぶ。はいよー、任せて!と叫んだ雪羅はその水で作り出された壁を一気に凍らせてしまった。
物凄いスピードで向かってきたテケテケとトコトコは急に止まることが出きず、いきなり出来た氷の壁にぶつかってしまった。酷く痛々しい音が鳴る。


「すっげ…さっきと全然違って超楽だな」

「ふむ……で、誰がくっつけに行くんだ?」

「「…あ。」」


壁の向こうにいるテケテケは自分の持っている釜で壁を叩いている。この壁が保つのも時間の問題だな…と奈緒が思ったとき、柳がツッコミを入れた。
全員が顔を見合わす。果たして誰がテケテケとトコトコをくっつけに行くのか。





【謎2:メリーさん】攻略



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