紅い月−七つの謎と黒い影−

MISSION*09 



蒼音と雪羅の力で作った氷の壁は、奈緒たちと反対側にいるテケテケによって砕かれそうだった。強制的に成仏なら壁なんか作り出さずに一瞬で消すことは出来るが、何せ七不思議の1つ。強制成仏は2回までなため、そうするのは相当危険だ。そんなわけで誰も手が出せない状況だった。


「……どうしようか。…あ、真田行ったら?」

「む、なぜ俺なのだ」

「いや、何となくだよ。ほら」


いくら真田が哀れでも幸村に逆らえないため、他のレギュラーはその場で真田に向かって合掌した。
こんな危険な状況でよく時間を使えるよな、と神楽一行は思ったことだろう。だが、こんな状況でもいつものペースが保てつつあるのはこの部の良いところだ。


「…奈緒様、私が片付けますので先を…」

「は!? いくら紫音でもあぶねーだろぃ」

「はぁ…じゃあ誰が行くって言うんです。時間もないのに」


紫音の言葉に口を挟んだ丸井。紫音は溜息を付いて丸井を睨むようにして見た。


「どうやらそんなことしている暇もないみたいだよ」

「ですね。もっと厚くしておくべきでした」


幸村の言葉で壁を見ると、もう少しで砕けそうなほど壁がぐらついていた。テケテケは持っている釜を大きく振りかぶる。そして釜を振りかざすと、壁は一気に砕け散った。
目の前のテケテケは廊下の端にいた奈緒と目を合わすと、ニタリと笑った。奈緒は目を見開く。


〈鬼ノ子ォォ…足ィィイッ!!!〉


透かさず奈緒の方へ勢い良く向かってくるテケテケは釜を振りかぶった。


《主っ!》
「奈緒ちゃん!」


水蓮と雪羅が同時に奈緒の名前を叫ぶ。


「───えいっ★」


それと同時に、今この場の状況で聞こえるのは絶対的に可笑しいという言葉が少しトーンの高い声で聞こえた。


「「《・・・・・・え?》」」


声が発せられた方を見れば、笑顔の幸村。
幸村は蹴り飛ばしたテケテケを踏みつけていた。それも笑顔でだ。そのテケテケの近くにふらついていたトコトコは白蓮の一蹴りで倒れ込み、横になっているテケテケと合体して浄化していった。


「奈緒に気を取られすぎて周りが見えてなかったね」

《やっぱお前なかなかやるなぁ》

『「(え、なんか超あっけな……)」』


奈緒は溜息を付きながら消えたテケテケの場所を再び見た。するとキラリと光る物が目に入る。静かにそれを拾い見てみれば、制服を着た女の子の硝子細工だった。背中には"1"と描かれている。
奈緒は成る程な…と呟いた。


『どうやら浄化できればこれが手に入るらしい』

「これって……硝子細工だね。でもそしたらメリーさんは?」

『ああ、それも…ほら。図書室に転がってた』


奈緒はポケットに入れていたもう1つの硝子細工を取り出して幸村に見せた。


「ホントだな。これ真っ二つになる前のテケテケっぽいし、この人形の硝子細工なんかメリーさんっぽいぜぃ…ってことは全部で7つ集めりゃいいってことだろぃ?」

「じゃあ残り5つってことっスね!」

『(それにしてもメリーと言いテケテケと言い……アレは一体どう言う意味なんだ…)』

「…この本、どうやら謎が近くならないと文字が浮かび上がらないみたいですね」


柳が持っていた本を貸し手もらい、ページをめくりながら紫音は奈緒に向かって言った。奈緒は頷いた後、役に立たない本だろ?と溜息混じりに答える。
だがその言葉を聞いていた雪羅は手をぱんと一度合わせて「いよーし!」と切り出した。


「んじゃあ色んな所行って、ばんばんイベント発生させよーじゃない!」

「ゲームみたいな言い方しないでくださいよ雪羅。あなたにとって七不思議はゲームと同じレベルですか」

「ゲームだよゲーム!みんなは難しく考え過ぎなのー。強制成仏2つまで〜なんてハンデもくれてこっちとしては大助かりだってのにね!奈緒ちゃん、約束破って学校に来た足手纏いのお世話ごくろーだったねぇ。」

「「(イラッ……)」」

「だけど私たちが来たからにはもう大丈夫、絶対殺させないからこの雪羅様にどーんと任せておきなさいっ!!」


この彼女の言葉1つでみんなの表情は明るくなり、気の張りつめた空気は無くなった。口が悪いのは置いといて、確かにその考えも一理あると蒼音は思いながら「時間もあまりありませんしうろうろしてみますか?」と奈緒に尋ねる。


『そうだな。出そうな所に行ってみるか』

「そーと決まればれっつごー!まずはなんか出そうな理科室からじゃー!!」


変な喋り方で声を上げ、理科室のある方へ向かいだす雪羅。奈緒は向かいながら携帯で残り時間を確認する。残り8時間だった。
このペースでは本当に間に合わないかもしれない。ぶらぶらする暇も無さそうだ…。奈緒は「急ぐぞ」とみんなに伝えると足を早めた。
理科室に辿り着くと雪羅はすぐに扉を開いて中を覗く。


「近くまで来たが、本には何の変化もない」

「ではここは違うと言うことになるのか?」


柳と真田はメリーさんの次のページを見ながらそう呟く。奈緒は雪羅の隣から理科室の中を覗き込む。


『妙だな…ほんの少し。微かに妖気を感じるんだが…』

「やっぱり奈緒様もですか。ここに気配がないと言うことは理科室の外に出たんでしょう。…でもそうだとしたらやっぱり思い当たるのは……骨格標本、とかですかね?」

『……、』

「奈緒様?」

『ん?…あぁ……そうかもしれないな』

「…廊下に出られると時間的に少々厄介です」


うーん、と考えていると、理科室を除いていた幸村が「ねぇ」と奈緒に声をかけた。奈緒は何だ、と幸村の方を向く。


「ここ、いつもの理科室と何か違うと思わないかい?」

『まぁ同じ場所でも空間は違うからな…』

「そうじゃなくて、何かが足りない気がするんだ」


何かが…?と奈緒は再び理科室をじっくり見始める。だがよくサボっている奈緒には当然違和感1つ感じられなかった。
そばにいたレギュラーをまじまじと理科室を観察する。すると丸井があ!と声をあげた。


「人体模型がないぜぃ!」


───ガシャン!!

丸井の声の後に何かが落ちた音がした。その音は廊下にとても響く。全員はゆっくりと振り向き廊下を見たのだった。


〈……ヨンダァ?〉


そこには膵臓を落とした人体模型がたっていた。


ジリ、ジリ…


小さな音を立ててノートの文字が浮かび上がった。


「【謎X:歩く人体模型、骨格標本】って…まさか……」

「2体で1つの謎、っちゅーことか…」

「歩くの?そこは普通動くじゃないの?おかしくない?」


青くした顔を見合わせた丸井と仁王に関係なく、雪羅は人体模型を見ながら空気の読めない発言をしていた。またお前か…と思うがもう誰も突っ込まない。
みんなは走り出す姿勢に入った。


〈膵臓…落チタ……オ前タチノ膵臓…クレェェェェエエエエ!!!〉


その言葉と共に全員走り出す。人体模型も落とした膵臓を拾わずに追いかけてきた。


「って走るのかよ!!!」


切原は走りながら、物凄いスピードで追いかけてくる人体模型にツッコんだ。確かに本には歩く書いてあるのに普通に走っている。
完全に油断して1番後ろを走っていた雪羅と切原はスピードをあげた。本日2回目の全力疾走だ。
いつも鍛えているテニス部とは違って奈緒は体力をすぐ消耗した。
紫音は猫の妖のため、足は早い。いざとなれば猫に変化して逃げることだってできる。雪羅はこれでも運動が得意であり、妖でもあるため、息1つ乱していない。
こうなるなら運動しておけばよかったと後悔する奈緒だった。


〈膵臓ォ……!!!!〉

「わあああああああああああっ!!!!」

「きゃああああああちょっと待ってキモいんですけど!!!?」


膵臓寄越せ、と叫びながら追いかける人体模型の後ろから、ガシャンガシャンと違う音も近づいてくる。
みんながみんなその音に気づき、まさかと思えば人体模型の後ろから白いものが見えた。それはだんだん大きくはっきりと見えてくる。
まじかよ…、と丸井が眉を潜めて見ると、人体模型より速いスピードで骨格標本が向かってきた。


〈太郎ーーー!!!〉

「速っ!!? え、太郎誰!!?!?」

〈アッ、ネーチャン!!!〉

「「ねーちゃん!?!!?」」


人体模型と骨格標本は走って奈緒たちを追いかけながら会話を始める。どうやら太郎は人体模型のようだ。見た目もかなり違うのに姉弟(しかも姉の方は可哀想なことに骨のみ)らしい。そのことに驚きつつも、追い付かれないように走り続けた。


「どうするのだ!このままじゃすぐに追い付かれるぞ!」

「分かってるならもっと早く走ってくださいよ真田先輩」


ほらほら、後ろが詰まりますよ、と余裕な顔で走りながら真田に話しかける蒼音に「鬼畜だなおい」と叫ぶ丸井。階段を下りると、再び廊下を全力疾走した。
テケテケよりはスピードが遅いが、何せ疲れると言うことがない。曲がり角も壁に衝突することなく曲がることが出来る。
それに比べ奈緒たちは10人で逃げている。当然廊下いっぱいに広がって走っても速く走れないし、疲れてスピードも遅くなる。
状況的にかなり不利だった。


〈膵臓ォォォ!!!〉

〈ハイ膵臓!〉

〈アッ、ネーチャンサンキュー!〉


「いやいや何で姉の方が持ってんの!!?」

〈ン?拾ッタ。〉

「普通に返答してきやがった!じゃあもう俺ら追いかける必要ねーだろ!!?」

〈〈…ア。〉〉

『(何だコイツら…)』


声を揃えて立ち止まった人体模型と骨格標本。マジか止まった…と思いながら奈緒たちもその場に止まって呼吸を整えた。
理科室から結構な距離を全力で走っただろう。レギュラーでも小さく肩で息をしていた。


『…何か今口裂け女に追いかけられてた君達の気持ちが分かった気がする(※1期7話参照)

「え、今?」

「そんなこともあったな…」

『まぁ恐怖なんて微塵も感じていないが…これは疲れる』


この状況で息1つ乱していないのは意外にも蒼音だけだった。


〈デモ…〉

『…あ?』

「…?」

〈ヤッパリ偽物ヨリ本物ノ膵臓ガ欲シンジャアアアアアアアア!!!!〉

〈私モ皮膚欲シィィィィイイイイ!!!!〉



不意打ち過ぎた。2体はいきなりそう叫ぶと再び追いかけて来た。人体模型は本物の膵臓を狙って。骨格標本は本物の骨ではなく皮膚を狙って。2体は自分の偽物の臓器と骨を両手にもって追いかけてきた。
奈緒たちはまた走り出すが、急に走り出してきたため反応が遅れた。廊下は広くない。並走出来るのも2、3人が限度だ。そのため後ろで走っていた奈緒や紫音たちは追いつかれ気味になっていた。


〈皮膚ゥゥゥゥ貰ッタァァァァアアア!!!!〉

『!紫音っ……っ!!』


人体模型よりも走るのが早かった骨格標本は近かった紫音に向かって手に持っていた骨を振りかぶった。紫音の隣を走っていた奈緒はそれに気付き、咄嗟に紫音の背中を押して後ろに入る。
鈍い音がした。ボタリと血が廊下に落ちる。

「「!!!?」」
《!!!》

「……奈緒さ、ま…、っ奈緒様!」


奈緒の白いシャツは血が滲んでいく。どうやら骨の先が尖っていたようで、それは腹部の左あたりに刺さっていた。



【謎T:テケテケ】攻略



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