紅い月−七つの謎と黒い影−

MISSION*07 



「メリー…さん?メリーさんって、あの電話の?」


これも流石にみんな知っていたようだ。丸井の発言にそうだと奈緒があっさり返答する。
どんなものかを知っている分、1から説明することはないため少しは楽なはずなのに、奈緒は眉を顰めたまま本の浮かび上がったページを見ていた。

ピリリリリリリリリン

柳は奈緒の許可を待っているようで、携帯の通話ボタンを押す気配はなかった。それに気付いた彼女は柳に出ていいぞと許可を出す。柳はそう言われた直後、携帯の通話ボタンとスピーカーボタンを押した。


【モシモシ。私、メリー…】


高くてガラガラとした声が図書室に響く。メリーさんは続けた。


【フフ、私、今フランス ニ イルノ…アナタ達ハ、ドコ ニ イルノ?……フフフ、フフフフフ、待ッテテネ、今スグ、ソッチヘ行クカラ…ネ♪】


メリーさんはそう言った後、すぐにブツッと音がして通話が途絶えた。
携帯からはツー、ツー、と音が聞こえる。柳は携帯を閉じた。


《中々の気色悪さですね…》

『そうだな、気色悪い。』

「あれが段々近づいてくるのか…確かにきめぇな」


本を囲んで円形のテーブルに座ったまま次々と感想を言う中、切原が突然大きな声を出した


「…どーするんスか奈緒先輩!!」


切羽詰まった声にみんなが切原の方を見た。


「何焦ってるんだ赤也?」

「知らないんスか!? 確かメリーさんって───」


───“Angels we have heard on high
Sweetly singing o'er the plains,”



「「…!!」」


切原の言葉を遮るように再び鳴り出す携帯。今度は切原の携帯だった。


───“And the mountains in reply Echoing their joyous strains.”


「なぜクリスマスソング…」

「まだ9月だよな…」

「赤也…」

「!はぁ!? 俺こんな着信にしてませんよ!!」

「そうだよ、(未だにサンタを信じていても)赤也がこんな英語の歌を着信音にするはずがない」

「……ぶ、ぶちょー…」

『電話、出ていいぞ切原』


奈緒の言葉に切原は気を取り直して通話ボタンを押した。
スピーカーに切り替える。奈緒達は電話の向こうからの言葉を待った。


【モシモシ、私メリー。今、神奈川ニイルノ───。ブツッ】


通話が途絶え、沈黙が続く。


「…はやっ!」


そんな沈黙を破ったのは丸井だった。みんなは驚く前に微妙な顔をして黙っている。


「…フランスにいるって報告のくだり、いらなくないっスか?」

「赤也。それはみんな思っていることだから突っ込んでやるな」

「あ、はいっス。」

《どーせ自分が早いことを自慢したいだけだろぉー?んなもんほっとけほっとけ》

《それより切原さん、先程主に何か言おうとしていませんでした?》

「…あぁ、そうだった…。……奈緒先輩。この七不思議、攻略出来る確率なんて0に等しいっスよね。」


奈緒は無表情で俯いて喋る切原を見つめる。それ以外のみんなは「…え?」と奈緒と切原を交互に見ていた。
奈緒は間を置いて溜め息混じりに「…そうだな」と小さく呟いた。


「そもそも強制的に浄化するのがダメなんて俺らに勝ち目なんてないでしょ…相手は人間じゃねーのに」

「赤也、まだ始まったばかりだぞ。弱音を吐くとは…」

「だってメリーさんの対処法!ないじゃないっスか!!!」


切原の叫んだ言葉にその場にいた奈緒以外の全員が眉を顰めた。
奈緒は表情を変えずに切原を見つめる。


「謎2つ目で既に対処法のないあやかしに当たって…こんなのただの無茶振りだろ…。メリーさんが何とかなったとしても他ので死ぬに決まってる…」

『じゃあなぜ来た。』


彼女は座ったまま、俯いていた切原へ追い打ちをかけるように冷たく問いかける。その言葉が切原に突き刺さったのか「それは…」と言葉を詰まらせた。
奈緒は静かに息を吐き、立ち上がる。


───“歩こう 歩こう 私はーげん”ブツッ


「(……ん?今の着信音ってさんぽ?)」

「(今の奈緒の携帯だよな…てか出ずに切った?)」


その場の雰囲気とは思えない着信音を一瞬にして切った奈緒の表情をみんなが伺えば彼女はこめかみにうっすらと青筋を浮かべていた。


『切原。今ここで弱音を吐いて全てが解決するなら一生言ってろ。』

「なっ…!」

『お前がみんなとここに来ることを選んだんだろ。後になって喚くな。』


───“歩こう 歩こう 私はーげーんきー 歩くのーだ” ピッ


『うるせェあと5分待ってろぶった斬るぞクズが。』

「「(うわぁ、口悪っ…)」」


彼女は一方的に暴言を吐いたあと、一方的に通話ボタンを切って携帯を閉じた。そして溜息をついて携帯をポケットにしまうと再び切原を見る。


『…なぁ切原。』

「な、なんスか…」

『多分君は他の奴以上に妖系統の知識がある。だが知識が中途半端故にみんなより恐怖心を抱いているんだろう。私からすれば君もまだまだだけどな。…でも知識があるのは大いに助かる。何も知らないこいつらよりかは断然にマシだ』

「奈緒ひでぇ…」

『…確かに勝ち目はないかも知れない。今の所、妖2体に出会って2体とも対処が難しい。そんな状況で、君が死ぬかもしれないと思うのも無理はない。私だって時間以内に攻略出来るかとか、終わるまで生きていられるか、とか何1つ分からない。…だが生憎、私は諦めるなんてしょうに合わない選択肢は最初からないんでな。最後まで悪足掻きをしてやるつもりだ。』


奈緒は歩いて切原の傍まで行くと、頭の上に手を置いた。


『…まぁ、あれだ。切原達が来ることを想定していなかったのは私の落ち度だ。入れないように結界を張るべきだったと今更ながら後悔している。けど、来てしまった以上私が責任を持って守る。だから、安心してくれ』


奈緒はそう言うと、切原に向かって優しく微笑んだ。
意外な顔をする残りのレギュラーや水連と白蓮の視線に気づいた奈緒は切原の頭から手を離して腕を組む。


「かっこいいこと言うね奈緒。でも悪足掻きとか…完全に死亡フラグじゃないかい?」

『そんなことはない、勝つ気満々だ。私の両親は攻略出来たんだ。娘が出来なくてどうする。』

《えっ?主のご両親ですか…?攻略って…》

『さっき攻略出来たのは2人って言っていたろ?お母さんとお父さんだった。』


奈緒はこれを見つけたんだ、とひらひらと日記帳を見せた。


『まぁ七つの謎の内容は、見事に全部省かれているけどな』

「何だそれ…役に立つのかよぃ…」


さぁな、と答えた奈緒はさっさと日記帳をしまい、先程座っていた椅子へ座り、腕を組む。“重点だけ述べるために、七不思議の内容は省かせてもらう”と書いてある限り、恐らく重要なのは七不思議ではない。それよりもっと大切な事がある、あるいは起きると思ってよいのだろう。それに、両親を見つける大事な手がかりになるかも知れない。
だがどんな内容が書かれているのかをまだ知らない奈緒の頭の中は、色々なイメージパターンが構成されていた。黙って思考を巡らせる。
そこへまた、再びあの曲が流れた。


───“歩こう 歩こ”


【5分たっ───】

『どこだ。』

「「(最後まで聞いてやれよ…律儀に5分待ってくれたのに…)」」


着信音が鳴って、奈緒が舌打ちをして通話に出るまでに5秒もかからなかっただろう。それを見ていたレギュラー陣は若干顔をひきつらせていた。


【モシモシ、私メリー。今、学校ノ前ニ───】

『そうか。』

「しかも途中で切るとか…逆にメリーさんが可哀想になってきたぜぃ…」


奈緒は既に通話ボタンを切った携帯をしまいながら面倒臭いの一言で片付けた。


『ああ、そうだ。1つだけ言い忘れてたが…切原、メリーさんは対処法がない訳じゃない。』

「え?…そうなんスか!!?」

『まぁな。…それでも確率的に勝てるのはほぼ0%だが』


正直なところを伝えると、一瞬明るくなった切原の顔がすぐに元の表情に戻る。奈緒は切原の方を見ながら「と言うか君たち忘れてないか?」と付け足した。


『七不思議を攻略するために学校に残ったのは私だけじゃないぞ。』


その言葉の意味がみんなにはすぐに理解できたのか、堅くなっていた表情が少しだけ崩れた。


───“良くない噂ばかりしてるでしょ? だけど どれか1つはREAL”


再び着信音が鳴った。鳴った携帯の持ち主は…


「柳生…仁王の歌を着メロにしてんの?」

「してません!」


───“FAKE IT, SHAKE IT 流れゆくPIECEの中に隠したCLUEを見つけて”


「じゃあ何で…ハッ!まさか柳生…」

「違います!全く、失礼ですよ丸井君。仁王君の悪戯でしょう」


そう言って溜息を付くと、通話ボタンを押す。本日4回目のメリーさんだ。


【モシモシ、私メリー。今1階ノ踊リ場ニイルノ…】


同じようにすぐに切れる。もう近いことにみんなは息を飲んでいた。ただ1人、奈緒は平然とした表情で本を読んでいる。


『〔メリーさん。怪談系都市伝説の1つ。引っ越しの際に捨てられたフランス人形。捨てた人物が憎くて毎回電話をかけ近付いてくる。〕…役に立たない本だな』

「回数的には後、2階の踊り場、図書室の前、あなたの後ろ、で3回あるってことだよね。」

「多分……恐らく?」

『先に言っておくが後ろにいると言われても絶対に振り向くなよ。』


みんなは無言で頷く。みんなの同意を得たところで奈緒は「よし」と呟いた。すると突然、隣から音が流れ出す。


───“忘れないで夢を 零さないで涙
だから君は飛ぶんだどこまでも”



「「…え。」」

「…む?」


全員沈黙。一斉に鳴っている携帯の持ち主の顔を見る。
だが、沈黙もわずか。今度は一斉に吹き出した。それを見た本人、真田は眉間に皺を寄せる。隣に座っていた奈緒は顔をひきつらせていた。


『……な、懐かしい曲だな』

「ちょ、奈緒…ぶふっ、フォローおかしいって…っははは!」

「真田が…真田がア〇パ〇マ〇とか!ひー!」

「たわけが!俺はこのような着信には…」

「いや、そんなの分かってるけど…ぶふぉっ」


───“そうだ 恐れないでみんなのために 愛と勇気だけが友達さ”


「「ぎゃははははは!!!!」」

《おい真田。そんなに嫌なら早く出ればいいじゃねーか…ふっ……》


笑いが収まらない中、笑いながらだが真田に助言してやる白蓮。真田はそうか…と言いながら携帯を開く。それを見た奈緒は「もう騒ぐのはやめだ。真田、スピーカー入れるのを忘れるなよ」と注意した。先程のように静けさを取り戻し、真田はゆっくりと息を吐いて、通話ボタンを押す。


『…!?』


途端、大きな邪気を感じ取った。


〈【モシモシ、私メリー。今、アナタノ後ロニイルノ…】〉


真田の後ろから二重に聞こえる声。全員が全員、固まってしまった。それと同時に直感的に振り向いてはいけないと警告が流れる。奈緒にも言われたとおり、みんなは黙って動かずにいた。だが、奈緒の真正面に座っている切原は青い顔をする。位置的にメリーさんが見えるだろう場所だった。
奈緒はよりによって切原が一番最初に見るなんてな…と溜息を付くと、ある術符を取り出した。


〈後ロニ、イルヨ…〉


誰も振り向かないことを不思議に思ったのか再び繰り返される言葉。いつの間にか携帯の通話は切れていた。


『はっ、そんなこと邪気で丸分かりだ。』


先程まで前を向いていた奈緒はいつの間にか振り返りメリーさんを見ていた。その声にみんなはハッとして奈緒の方を見る。予想外なことに、奈緒は刀を出して目の前の小さな人形の首に当たる寸前で止めていた。


〈!? ナニヲ…ッ〉

『おっと、動いたら斬り裂くぞ。』


奈緒は刀を握り直す。目の前の人形は動かずにいた。


『正直、焦ったよ。まさか、予測されていた2階踊り場と、図書室前の通話報告をすっぽかして来るなんてな。油断してた』

〈…油断シテル、好都合。……アナタ達ニ勝チ目ハナイ…〉

『(段々近づくのがメリーの醍醐味だろ…)』


奈緒がそんな事を思っているのにも関わらず、刀を首に当てられたままのフランス人形は不気味な声で笑い出した。


〈…フフ、ソレヨリ鬼ノ子ノ血ィ、早クチョーダイ…アナタヲ殺ス…殺シタイ……食ベタイ、心臓…欲シイ…!!〉

『私を殺す前に、1つ条件がある。』


奈緒は狂いかけた人形にきっぱりと一言断言した。周りの人はそれがメリーさんの対処法なんだとすぐに悟る。
立海レギュラーの視線が奈緒に向かう中、奈緒はメリーさんに向かってこう言った。


『…私とゲームをしてくれ。』




【gloria・さんぽ・Fake・アンパンマンマーチ】の歌詞引用



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