MISSION*06
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
「ひぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
〈足、ヲ…寄越セェエエ…ッ!!!〉
「うわああああああああ来んなああああああああああ!!!!!!!」
1つ目の謎、それはどうやらこの妖らしい。
妖として分類していいのかさえ分からないような見た目の霊。
下半身はなく、上半身の断面部分からは内蔵やら血液やらが垂れている。そんなグロテスクな姿をした少女は尋常でない速さで走って来ていた。
足音───いや、手音で既にお分かりいただけたであろう。テケテケだ。
テケテケと出会ったのはほんの数秒前、奈緒たちが教室を出て数分も立たない内に出くわしたのだった。
───────……
「神楽さん。」
『……。』
「神楽さん?」
『…ああ、どうかしたか?』
廊下を歩く奈緒に話しかけたのは柳生だった。柳生は彼女の隣に並び、疑問に思っていたことを喋る。
「この立海の七不思議はどのようなものがあるのかと思いまして…先程妥当なものもあると仰っていましたが、予想している七不思議はあるんですか?」
『いや、今のところない。…柳生、逆に聞いていいか』
「はい、何でしょう」
『君はどんな七不思議を知っている?ベタなものでも何でもいい、例を上げてみてくれ』
そんな質問が来るとは思っていなかったのか、彼女の問いに少し驚いた後「そうですねぇ」と呟いた。
「動く人体模型だったり、ベートーベンの目が動いたり…」
「俺、動くモナリザとか知ってるっス!」
「それもありますね。あとは…走る二宮金次郎像だったり、テケテケとか、トイレの花子さんとかですかね…」
『…二宮金治郎の像はウチの学校にはないだろ。』
「テケテケ」
『…まぁ、柳生の言ったとおり、今言ったのも少なからずあるかもしれない。例えばそのテケテケだが…』
「テケテケテケ」
『そうだな、こんな音を立てて廊下を走る。そいつの対処法だが……今誰が言った』
奈緒は付いてくるレギュラーに聞くようにして振り返った。瞬間、フリーズした。柳生も振り返ると同時にフリーズする。そんな2人を疑問に思ったのか、全員がその2人の視線の方向を見た。
数十メートル先の天井にくっつくようにしてこちらを見ている少女。ニタァ、と笑った。
〈アシ…チョォダイ…ッ〉
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
『…は……走れ!!!!』
「うわあああああああああああ!!!??」
そして現在の状況に至るのだ。
〈足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ足チョウダイ!!!!!!! 〉
「きもっ、狂ってんだろぃ!?」
《主!恐らくこれは七不思議の1つ目ですね!》
《それより奈緒!速く走らねーと追いつかれるぞ!!》
「奈緒!手貸して!!」
レギュラーに付いていくだけでも精一杯な奈緒は、幸村に手を引っ張られながら走る。先頭を走る切原が振り返りながら「奈緒先輩っ!」と叫んだ。
「どうするんスか!このまま走ってたら行き止まりっスよ!」
『私が指示をしたら急いで曲がって教室に入ってくれ!!』
奈緒はもの凄い勢いで近付いてくるテケテケを走りながら尻目で見て、教室の扉との距離を測る。
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
〈オ前ノォ……鬼ノ子ノ…足ィ…!!!〉
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
『今だ!曲がれ!』
そう叫べば1番前にいた切原は教室の扉を勢いよく開け入った。それに続いて後ろにいたレギュラーと奈緒は素早く教室に入り込む。最後に奈緒が入ったのを確認すると扉を閉める待機をしていた切原が急いで閉めた。
『すまない…、ありがとう切原』
「っス!」
肩で息をする奈緒は切原に礼を言うと今度は幸村を見た。その視線に気付いたのか幸村はじっと奈緒を見つめ返す。
「何だい?」
『引っ張ってくれたことに感謝はしてるが…手を離してくれると助かる。』
ああ、ごめんと言いながら幸村はそっと手を離す。
奈緒は呼吸を整えながら背中を壁に預け、その場に座った。
「まさか一発目からテケテケだとはな…」
柳の言葉にそうだなと呟く真田と、溜息を付く奈緒。
『参ったな…あれが強制成仏出来ないとなるとかなり面倒臭い』
《足は速いにしても、主の体力は人並みですもんね。》
『……。…悪かったな』
《次来たら俺の背中乗るか?》
もっと早く言えと言わんばかりに隣に座る白蓮を見て少し考えた後、ピンチになってから頼むと断り頭を撫でた。
「てか何でテケテケ追って来ねぇの?」
「テケテケは急に止まれないって聞いたことあるっすけど」
『切原の言う通りだ』
「おまっ…何でそんなに知ってんの?」
「テケテケってマジでベタなやつじゃないっスか。こんなん俺でも知ってるけど」
『だが戻ってくるのも時間の問題だ。その前に図書室に向かう』
そう言って立ち上がる奈緒。扉に近付く彼女を制止したのは真田だった。
「…待ってくれ神楽。その前に聞きたいことがある。そのテケテケとやらは強制成仏せずに解決する方法があるのか?」
『ある。……けど、』
「けど?どうかしたのかい?」
『…相当大変だぞ。』
「あー…確かにめんどいっスね。…先輩ら、トコトコって知ってます?」
奈緒の言葉に同意する切原はその場にいる3年レギュラーに問いかけた。みんなは知らないという顔で首を傾げる。
「トコトコっつーのはテケテケの下半身部分のことなんスよね。そんでこの校舎にテケテケがいるっつーことはどっかにトコトコもいるってことっス。」
『テケテケは自分の下半身がないが為に、他の奴の下半身を狙って追いかけてくるのは知ってるだろ』
「テケテケは目が見えるから追いかけてくるけど、トコトコは顔がないから絶対襲われない。つまり!解決する方法は1つだけっス!どっかにいるトコトコを探してテケテケにくっつける!!」
どや顔で言う切原に3年一同は苦笑した。
《時間も限られていますし、テケテケを相手にするのはまだ早い気がします。取り敢えず出会わないよう注意しながら他の七不思議を優先しませんか?》
奈緒はその言葉にそうだな、と頷いた。
テケテケに見つからず、トコトコを見つけだし、合体させて成仏させることが出来るのだろうか。そんな思いを片隅に、奈緒たちは再び教室を出て早急に図書室へ向かった。
幸い、テケテケとトコトコには出会うことなく、図書室に着くことが出来た。
『この七不思議に関する資料がないか手分けして探してくれ。私は奥の方を調べる。』
「俺はこの学校の資料が置いてある場所を調べてこよう。」
「んじゃ俺、奈緒とは反対の奥の方行くぜーい」
「じゃ、怪談系統の本があるところ調べるっスね!」
そう言いながら早速別れてありとあらゆる本を手にとって調べる。白蓮は図書室の扉の前に門番として待機、水蓮はあちこちを飛び回りながら探していた。
案外、図書室内は広く探すのに時間がかかる作業だった。
何十分経っただろうか、未だに何の手がかりも見つからない。資料がないということなのかと思いつつ、奈緒は携帯を開いてタイマーを見る。開始から、早1時間経っていた。
このペースでは間に合わない、そう思った瞬間、探していた本棚の右端に細い隙間があるのに気が付いた。不自然に思い、覗いてみれば本ではなく、小さくて薄い物が入っている。取り出してみれば、手帳のような物だった。
『…日記?』
少し古びているようで、カバーはほんの少し変色している。
誰のものなのか。なぜこんな所にそんなものがあるのか。そう思いながら開けば、奈緒は目を見開いた。
“奈緒がいつかこれを見る日が来るまで”
そう綺麗な字が書いてあった。すぐにページをめくる。
“こんな場所に隠すのはどうかと思ったけれど、成長して強くなったあなたに見せるため───神楽真緒は真実を書き残す”
そこには完全に知っている人物の名前が書かれていた。奈緒は探す手の動きを止め、その日記帳に目を運んだ。
〔××月××日 源治郎さんが嫌な予感がすると言うことで、邪気の出身元である立海へ、瀬奈さんと忍び込み七不思議を攻略しに来た。〕
奈緒は再び目を見開く。自分の父親である───瀬奈と言う名前がそこには示されていた。どうやら両親2人で攻略に来てらしい。そして先程スピーカーで男の子が言っていた攻略者2人と言うのは彼らであることが判明した。奈緒はその場で黙々と読み続ける。
〔4時44分。全ての時計が止まり、幼い男の子の声がする。その子は律儀にルール説明までしてくれる。ただ七不思議で出会ったどの妖怪よりも1番邪気が強かった。そこから七不思議がスタート。重点だけ述べるために、申し訳ないが七不思議の内容は省かせてもらうことにする。〕
ページをめくろうとした途端、後ろから声がする。その声の主は幸村で「奈緒!あったよ」と言葉が聞こえた。
奈緒は日記を閉じ、それを持ったまま幸村の方まで行った。既にみんな集まっていて、視線は一冊の本に集中している。
彼女らは図書室に設置されている円形のテーブルに本を囲んで座った。本には“立海七不思議”と明朝体で書かれている。幸村が開けば1ページ目には、“謎T:テケテケ”と言う文字が並んでいた。
「〔冬の踏み切りで女性が列車に撥ねられ、上半身と下半身とに切断された。だが、あまりの寒さに血管が収縮したため出血が止まり、即死できずに数分間もがき苦しんで死んでいった。〕だって。」
『…解説だけか?対処法などは書かれてないのか?』
奈緒の質問に幸村はもう一度本に視線を落とす。だがすぐに「書いてないみたいだ」と静かに返した。柳の2つ目の謎は何なんだ?と言う問いに、幸村は無言でページをめくる。だが途端に目を見開いた。
「…白紙か。」
真田が呟く。その言葉に反応したのか奈緒はその場に立って本を覗いた。確かに、p.4と言うページ数以外何も書いていない。次のページも、その次のページも何も書かれていないただの白紙。まっさらなページだった。
『まさか…』
奈緒がそう呟いた途端、
ピリリリリリリリリリリリリン
今度は携帯の音が鳴った。
「こんな着信音に設定した覚えはない…」
そもそも圏外だったはずだ、そう言いながらポケットから携帯を取り出したのは柳だった。電話の鳴り続ける中、奈緒はふっと笑った。
『成る程。これが2つ目か…みんな本を見てみろ。』
彼女の指差した白紙のページに“謎U:メリーさん”と言う文字が浮かび上がった。
[6/12]
←BACK | TOP | NEXT→