桜の花びら三枚


「何じゃ何じゃ、この辺の空気はえろぉ暗いにゃあ!」


静かになっていた所に一際明るい声が響く。紬と小狐丸がそちらを向くと、笑顔の陸奥守吉行がそこにいた。彼の姿を見た瞬間、彼女はハッとして「アンタ……」と呟き、ぴくりと眉を潜める。そんな紬の様子を気に留めることもせず、陸奥守は彼女に自己紹介をした。


「やっぱり見覚えがあると思ったら、坂本龍馬の刀か……」

「あぁ、おんしの言う通りぜよ!けんど今は仲間。抜刀だけはやめてくんろ?」

「その辺は弁えてるつもりだから安心していい」

「新撰組の奴らにゃ抜刀しちゅうんに?」

「……それとこれとは話が別。……そっか、坂本龍馬の刀もいるのか。他に維新側の刀はいるの?」

「いんや、おらん!わし1人ちや!」


ふーん、と呟いた彼女は、馬から離れて小狐丸と陸奥守の方に向かった。


「……近くで見ると小狐の髪さらさらそうだね」

「ほう、紬もこの毛並みがいいと仰る……何なら梳いても……」


すっとどこからか取り出した櫛を紬に見せると、彼女は驚いた後「また今度暇があったら」と苦笑しながらそう返した。一体どこに櫛を忍ばせていたんだろう。常に持っているのだろうか。
そんなことを頭の隅で考えつつ、紬はそろそろ戻ると小狐丸に簡単な別れを告げた。馬小屋を離れようと歩き出すと、傍にいた陸奥守に呼び止められ、成り行きでついでに本丸の案内をしてもらうことになった。


「維新側の刀と一緒にいるって何か違和感しか感じないね」


陸奥守も彼女の言葉に同感だと笑った。最終的には御陵衛士として過ごしていたため同じ目的を持った同士だったかもしれないが、かつて敵同士だったやつが今ではこんなに近くにいて、しかも案内されている。そんな状況を考えるととても違和感を覚えた。
手入れ部屋や厨房、風呂場など色々な場所を教えてもらう。途中で加州と大和守に出会って元敵といるのがどうとかこうとかと言われていたが紬は完全無視を突き通した。今は仲間であり、以前とは違いこの本丸で仲も良くなったからこそ、彼らは紬が真っ先に陸奥守と仲良くしていたのが気に食わなかったのだろう。


「唐突にこんなこと聞くのもどうかと思うけどさ、陸奥守の主は……長生きした?」


彼女の質問に、陸奥守から一瞬笑顔が消えた。そして「……暗殺されたがや。わしも傍におったんに、何も役にたてんかった」彼は呟くように答えた。紬は、坂本龍馬がどうなったのかなど一切知らなかった。まさか暗殺されているとは思わなかったため、そんな彼の言葉を聞いて言葉を失う。少しの間があったあと、小さな声でごめんと呟いた。


「いつやったか、おまんとわし、一度おうたことあるんやが覚えちゅう?」

「………ああ、伊東さんと平助くんが坂本に会いに近江屋へ行ったときだっけ。」

「そうそう、あんときあんとき。折角敵の動きの情報もろたんにのう……わしの主と来たら、結局さいごまで逃げんとそん場におったき暗殺されてしもうたがや」

「………。」

「けんど!もうそれは仕方のないことちや!わしらがどう思おうが、時代の流れには逆らえん……!」


長い廊下がとても静かに感じる。彼の言葉にどう返していいか分からず、紬は黙ったまま廊下を歩いた。


「でも今は時間遡行軍を倒すっちゅー目標を持った仲間があじゃんとおるがやき。上総介も楽しまんと損じゃ!……ほれ、次の場所案内するぜよ!」

「……強いね。アンタも私と同じ、目の前で自分の主殺されてんのに……。……あと別に紬でいいよ。案内の続きよろしく」

「ほいたら紬ち呼ばせてもらおうかにゃあ!わしのことも好きなように呼んでくれてかまんぜよ!……ほんで、こっから見えゆう建物は道場じゃ!手合せとかに使うきぃ。そんで、この廊下の突き当たりにある部屋が書物庫じゃ」

「書物庫?……何の?」

「時代関係なく、昔から今までの色んな書物が置かれちゅう」


彼の言葉を聞いて何かを考えている素振りを見せる紬。それに気が付いた陸奥守はどうかしたのかと彼女の名前を呼んだ。


「……新撰組のことが書かれた書物とか、ある?」

「?そりゃあ、歴史全般はどっかに───」


行く。彼の返答を聞いてそう応えるまでに時間は差ほどかからなかった。浅葱色の羽織を靡かせずんずんと進んでゆく紬に、はてなを浮かべながら付いていく陸奥守。
書物庫の中には沢山の書物が並べられてあった。平安くらいの物もあれば、紬たちが生きていた時代の物もあり、珍妙でハイカラな書物まである。
もしかしたら、真実が分かるかもしれない。彼女はそう思いながら書物を見てゆく。少々時間はかかってしまったが、やっとの思いで見つけた新撰組についての書物。彼女はページを開いて目を通していった。


「───あった。……“油小路事件”って言うんだ……」


伊東甲子太郎が暗殺され、平助くん含めその他御陵衛士が亡くなった事件。その事件について読み進めていくと、彼女の知らなかった真実が全て書かれていた。
近藤が永倉に藤堂を助けてやりたいと伝えてたこと、本当に藤堂を逃がそうとしていたこと、遺体は全てきちんと埋葬されたこと、全て堀川の言葉の通りだったのだ。
彼女は読み終わった書物を静かに閉じた。はは、と乾いた笑いが漏れる。傍にいた陸奥守はそんな紬を見て心配そうに訪ねた。


「…………ごめん吉行……案内はもういい。1人にしてほしい……」


壁にもたれて座り込む紬。俯いていたせいで彼女の表情は見えなかった。彼女の真意を察した陸奥守は「……いつでも案内の続きしちゃおき」と言いながら書物庫を出る。彼女は返答せず、その場に座ったまま伏せた。
結局、全て誤解だった。藤堂の思いに気付いてあげるどころか、紬1人がずっと裏切られたと思い込んで。
その勝手な思い込みのせいで、嫌いなんかじゃない、むしろ大好きだった仲間を必死に嫌いになって復讐を決意して……。なのに。なのに今更誤解だったなんて。


「……。有り得ない……」


何のための復讐だ。何でこんな思いをしなければならないのだ。この怒りはどこにぶつければいい。憎しみや恨みはどこにぶつけたら消すことが出来るのか。
得たものなんて何も無かったじゃないか。仲間との信頼、絆。大切なあの人。失ってしまったものの方が多い。
今更、真実なんて知りたくなかった。


「───紬?」


突然聞こえたある声に反応して顔を上げると、彼女の目の前には堀川が立っていた。


「っ……ほ、り……かわ、」

「……陸奥守さんとすれ違って、彼に紬が書物庫にいるって聞いたから……これ、読んだんだ」

「…………堀川の、言った通りだった」


ぼそりと呟く。静かなこの場所では、そんな小さい声も普通に堀川の耳には届いた。うん、と反応しながら堀川もその場にしゃがみ、紬と目線の高さを合わせる。


「私だけが、私1人だけが勘違いして……勝手に復讐なんて決め込んで……」


悔しそうに続ける紬。そんな彼女の表情は段々と自嘲じみた笑みに変わっていった。


「大好きだった仲間な筈なのに、隊のみんなは全員大嫌いだなんて自分に言い聞かせて……ずっとずっと恨んで、仇を取ってやりたいとまで思ってたのに……」

「……うん、」

「私にはもう何も無い……大切だった主も、仲間も、目的さえも、全て失った……。……自分がここにある意味が分からない……」

「紬……、」

「……こんなに苦しいなら、何も知らないままの方が良かった……っ、こんなところ、来たくなかった……!折れたままの方が良かっ───」


───パシン。
乾いた音が書物庫に響いた。じんと頬に痛みが走る。堀川が彼女の頬を叩いたのだ。紬は頬を押さえ、驚いた顔で堀川を見つめた。
堀川は明らかに怒っている。紬が彼の表情を見てそう理解するのに数秒もかからなかった。


「……何でそんな事言うの」

「……。」

「折れたままがいいなんて……そんな悲しいこと言わないで」


怒っている。けれど、どこか悲しそうな顔をしていた。
なぜそこまで堀川が怒るのか、紬には全然理解出来なかった。一体何が堀川にそうさせているのか。
頭の中がごちゃごちゃだ。何が何だか分からなくなって黙っていれば、堀川は先程叩いたの頬にそっと触れた。


「叩いてごめんね……でも僕は紬がここに来てくれてとっても嬉しかったんだ」

「……嬉しいなんて思ってるのは堀川だけだよ。他のみんなは私のこと良く思ってない。特に加州と大和守は」

「そんなことないよ。あの日……折れた君を持って帰った時、それを見た安定くんは傍で大号泣したんだから……清光くんもあとからそれを知ってすっごく泣いてた」

「……は。大号泣とか嘘でしょ……それに加州だってその頃は池田屋で既に……」

「嘘じゃない本当だよ。隊を離れた後もずっと紬は?紬は?って心配してたんだから。あの子達に限って君が嫌いなんて有り得ない。それに他のみんなもさっきの出来事にちょっと驚いただけだよ」


いつの間にか堀川の手は紬の頬から頭へと移っていて、よしよしと優しく撫でていた。
紬は本当は優しくていい子なんだからすぐにみんなとも仲良くなれるよ、と優しく微笑む堀川。きっとすぐにみんな君のことが大切になるからと続ける彼に、彼女は思わずバッと抱きついた。堀川はきちんと受け止めたものの、彼女の勢いがありすぎたせいで尻餅をつく。


「…………堀くん、」

「!……うん、なあに?」


ありがとう、そう返せば堀川は「どういたしまして……なのかな?」と小さく笑った。
堀川の言葉が純粋に嬉しかった。彼のお陰で2回目の、刀としての生を歩むことが出来たのだと思う。その日から、紬が堀川にベッタリになってしまったのは言うまでもない。





「紬〜!そろそろ夕餉だってよ」

「あ、うん行く。獅子王、主サマはいいの?」

「すぐ行くって言ってた!先に行っとこうぜ!」


和真の近侍である獅子王と一緒に廊下を歩く。居間に向かえば、机と座布団がずらりと並べてあり、既に何人かの人がそこへ座っていた。
席は自由だと獅子王から聞き、どこに座ろうかと辺りを見渡す。1番最初に堀川を見つけるが、彼の両隣には和泉守と加州が既に座っていた。
チッ。堀くんを占領しやがって和泉守の野郎。あの辺はうるさくなりそうだから座りたくないと、どこか他にいい場所がないかと辺りを見渡した。


「紬。」


彼女の名前を呼びながら、手招きをするのは小狐丸だった。手招きをしている反対の手で隣の空いている座布団をぺしぺしと叩く。どうやらここに座れと言っているようだ。
それに従うようにそこへ向かい、有り難く座らせてもらうことにする。新撰組の刀らと離れているから申し分ない場所だ。
小狐丸でない方の隣には水色の髪の人が座っていて、さっと挨拶を済ませる。彼の名前は一期一振と言うらしい。
紬より後に来た短刀たちの大半が「いち兄の隣に座る!」なんて言いながらドタドタと急いでやってきた。が、そのいち兄の隣には紬が座っていたため、空いているのは1箇所。


「(いち兄とやらはとても人気なんだな……)」


一期が彼らの兄ということを知るのは、もう少しだけ後になる。
結局一期の隣にはピンクのもふもふ髪の男の子が座った。そしてその近くにいた白いふわふわした髪の男の子が、隣に座ることが出来なかったせいか、とても残念そうな顔をして取られてしまった席を見つめていた。


「……ねぇ、」

「!?っは、はぃぃ」


その短刀に彼女が声をかけると、驚かれると同時にとてもと言うほど怯えた顔を見せた。
そんな明らかに怯えられた反応を目の当たりにした彼女は少々傷つきながらも座布団から退き、さっきまで座っていた場所を指さす。


「ここ。座っていいよ」

「……へ?」

「いち兄が大好きなんだね。どうぞ」


ふふ、と笑い彼の頭を一撫でしてその場を立つ。小狐丸にはきちんと謝っておいた。
面倒なのもあり、空いたところに適当に座ろうと辺りを見回した結果、既にほとんどの人数が集まっていたため、空いている場所も少ない。さて、どうするべきか。


「紬も、こっちにおいでよ」


次に手招きしたのは何と堀川。途端、紬の中で葛藤が始まった。堀川に言われると何だか断れないが、あの場には座りたくない。正面だから尚更嫌だ。どうしよう。どうするべきか。
だが決めては彼の隣に座っている野郎だった。


「えー何でアイツの顔見ながら食べなきゃなんないわけー」

「ほんと、ご飯が不味くなるよね」

「こ っ ち か ら 願 い 下 げ だ わ 誰 が 行 く か よ 死 ね 。」


中指を立てる勢いで言い放ち、部屋の端まで行くと空いていたテーブルの右の隅に腰を下ろす。左隣の席にはたまたま陸奥守が来た。1人にしてと言われ書物庫を出てから、ずっと紬のことを心配していたらしい。もう大丈夫かと聞いてくる彼に対して、好感度が少し……いや物凄く上がった。
空いていた向かいの席には燭台切光忠が座り、最後に和真がやってくる。全員揃ったということで合掌の音頭をとり夕餉を食べ始める───のだが。
ご飯が有り得ないほど美味い。こんな食べ物初めて食べた。何これ美味しいと紬が感動していれば、向かいにいた燭台切がありがとうと笑った。どうやら彼が作ったらしい。はんばーぐ、と言う食べ物だということも彼から聞いた。これからはこんな美味しい食べ物が毎日、それも三食も食べられるのかと思うと、ちょっと楽しみな気がしなくもない。
食べ終われば、先程のふわふわとした白い髪の少年がこっちにやってきて、席を譲ったことに対してのお礼を紬に言った。どういたしましてと笑った後、彼女が名前を尋ねればそれは五虎退と名乗る。よろしくなどと話していれば、一期がやってきて彼もまた先程のことについてのお礼の言葉を述べてきた。
そんなにお礼を言われるほど大層なことはしていない、と思いつつも彼女は小さく笑っていた。


「あ、そう言えば紬……ちょっといいか?」

「?何でしょう主サマ」

「紬の寝る場所なんだけどさー。今なー……部屋の空きがないんだよ、あと布団も。ごめん」

「…………はい?ごめん、で済む問題と思ってます?」

「ゴメンナサイスミマセン許して」


いきなり爆弾発言する和真。
部屋がないのは百歩譲って仕方がないとする。しかし布団がないとはどういうことなのか。


「ははっ部屋がないとかざまぁみろだね」

「すっげー笑えるんだけどナイスじゃん主」


そう言いながらひーひー笑い出す加州と大和守。何こいつらめちゃくちゃ捻り潰したい。クソだわ。と彼女は冷めた目を彼ら二振りに向けていた。


「人数的にな、一部屋開けるってのは難しんだよ。今も1つの部屋を4人とか3人が使ってるのが現状だし。」

「……じゃあどうすれば?廊下で寝ればいいですか?」


和真の言葉に紬が真剣に返せば、ぶふっと加州と大和守が吹き出した。殺意が湧くのは簡単だ。
そうは言ってないと首を横に振る和真。それから彼は「一部屋だけ2人しか使ってない部屋があるんだよ」と続けた。
その途端後ろで聞いていた二振りの笑いが一気に止んだ。


「悪いけど清光と安定のところで寝てくれない?これお願い違うよ主命だよ☆」


一拍おいて、はああ!!?!?という3人分の叫び声が本丸内に響いた。


「ちょ、ちょっと待ってよ、何言ってんの主!?」

「うわー最悪なんですけど!」

「何でよりによって加州と大和守なんですか!絶対嫌です!て言うか主サマ私の性別ご存知ですよね!?」

「しゃあないじゃん審神者である俺も男だし〜刀剣もお前以外男だし〜、つーか元新撰組の仲じゃーん。……ね?」

「ね、じゃないんですよ主サマ……!それを言うならせめて堀くんにしてください……!ね、堀くん一緒に寝よう?」


堀川に振れば、彼は明らかに困った顔を見せた。そして「僕?う〜ん、僕はいいけど兼さんも長曽祢さんもいるよ」と苦笑する。
やっぱりいい、図体デカいのが2人いるとかむさくるしすぎ。それこそ絶対やだ。と堀川の返事を聞いて紬の方から即断りをいれる。


「おい紬、いつの間に国広の呼び方戻したんだァ?」

「うるせぇボケ今そんなのどうだっていいわ黙っとけ和泉守禿げろ」

「こら紬!兼さんにそんな言い方しないの!」

「堀くんはこの糞ガキに対して甘すぎ!堀くんに甘やかされて生きてるなんて本当に禿げてしまえばいいのに。あと私の方が年上なんだからいいんだよこれくらい」

「ババアだババア」

「おばさーーん」

「テメェらとはそんなに変わらないだろうが。沖田の刀は煽り方がクソガキみたいですね」


何か言えば皮肉な言葉を投げ返してくる。ホントこいつら何なの。昔からこんなクズな性格だったっけ。


「はいはい落ち着けよお前ら〜……ったく、じゃ紬。俺の部屋で寝る?」

「…………え、」

「一時的に顕現解く方法もあるっちゃあるんだけど、俺霊力少ないからそう頻繁に行えないんだよな……だから部屋どうしたいかは紬が決めていいぞ」


こいつらとが嫌なら仕方ないしな……と呟きながら紬に問う和真。その発言に、がやがやと騒いでいた新撰組のメンバーは驚いた顔で彼を見つめた。目が点になる、とはまさにこのことだろう。一気に辺りがしんとする。
どうする?そう聞いてくる和真の顔は真剣で冗談で言っているとは思えなかった。紬の気持ちを汲み取って答えを出した彼なりの配慮だと、彼女にもすぐに伝わる。……けれど。


『───ちょ、お前いつもそんなとこ座って寝てんの!?』

『───紬、俺と一緒に寝るか?』

『───ほら、こっちおいで』


「……っ、」

「?おーい。紬さん……?」

「……っお気持ちは有難いですが、私は大丈夫です主サマ……」

「そうか?じゃあ沖田組とでいい?」

「……抜刀許可を出してくれるなら」

「お兄ちゃんそんなの許しません。」

「主サマ……お願い」

「お兄ちゃん揺らぎそうだけど許しません!」


ぷいっとそっぽを向いてダメだダメだ!と断る和真に不覚にも可愛いと思ってしまった紬。ダメ元でやってみたお願いが思ったより効いたため、もう一回してみようかなとも考えたが、後ろにいた赤と青が「全然可愛くないね、今ので揺らぎそうになる意味が分かんない」やら「何やってもブスはブスだしね」と小さな声で話していたのが聞こえた。
カチンときたため許可が出てなくとも抜刀する。本丸を傷付けないように折ってやるよボケナス共。


「もー……こら!紬は刀しまって!清光くんも安定くんも悪口言わない!」


堀川にそう言われ、はーい……と刀を鞘に収める。堀川の言うことはすぐ聞くんだな……と和泉守と和真が傍で苦笑しながら紬たちを見ていた。
困ったな、抜刀せずにどうやって潰そう。て言うか何で堀くんの言うことだけは聞くかって言った?


「当然でしょ、堀くんは優しいし」


恨みは藤堂を斬った隊士、三浦常二郎という男になりつつありそうだ。とは言うが、もう死んでるだろう。
……どうしたって、心のもやは消えない。怒りの矛先の変え方なんて、知らない。
紬はそこまで考えると、はぁ、と大きな溜息を吐いたのだった。


「(ところでいつまでこいつらと顔合わせてなきゃいけないんだろう)」


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