最初は…
「見て見て!ほら、あの美男美女カップル!!」
「あぁ、神童先輩と武藤先輩じゃん!」
「朝から、2人で登校とか!…武藤先輩羨まし〜っ!」
「でも武藤先輩も性格良いから恨めないし、文句言えないよね〜」
「そうそう!校内でも有名な公認カップルだよ!ホントお似合い…!」
「ホントいつ見ても一緒だし、仲良さそうだよね」
学校へ登校していると前にいる女子が大きな声で話をしている。それを尻目に通り過ぎるとさっきの女子達が話していた噂のカップルがいた。
「あ、ねぇ拓人。今日も部活?」
「あぁ、でも今日はそんなに遅くならないと思う」
「分かった!じゃあ待ってるね!」
そう、神童先輩ににこりと笑いかける女の先輩。
「(ふーん…、あれが武藤っていう先輩か…)」
俺は仲良く歩いている2人の後ろ姿を目の前に、いつもと同じペースで歩いた。
「(てゆーかよく学校でイチャイチャできるよなぁ……俺だったら絶対無理…)」
そう思いながらきゃあきゃあ騒いでいる色んな人達を抜かし、上靴に履き替える。
俺は狩屋マサキ。雷門中1年、サッカー部のDF。おひさま園という所に住んでて、雷門中に転入してきてからそんなに経ってない。
俺は人と関わりたいとか仲良くしたいなんて思わないから、サッカー部やクラスの奴としかあまり関わらないし知らない。だから人を好きになるなんてこともないと思う。それにイマイチ、そんなことを考えたことがなかったから好きになるって感情がよく分からない。まぁ、分かろうとする気もあまりないんだけど。
その人の笑顔とか色々な姿が頭から離れなかったり、一緒にいてドキドキしたりするのが恋なんだよ…って空野さんが熱弁してたことがある。ホントにそうかなとその話に耳だけ傾けてはいたが、やっぱり俺にはよく分からなかった。
ただ、校内中の噂を聞いて、何となく神童先輩と付き合ってる人はどんな人なのかって少しだけ興味があった。別に、ただの興味だけ…。
学校生活はいつものように地味に過ごして時が経つのを待つ。授業中、先生の話を聞いてても、ただつまらないだけだ。
ボーっと窓の外の空を眺めていたら、次第に睡魔に襲われる。
「(もういいや…寝よ)」
そうして俺は、先生の子守唄をバックに眠りに付いた。目が覚めると丁度終礼が終わっていて。よく起こされなかったなと自分でも驚く。
「…爆睡してた」
そう呟いてしばらくボーっとする。
「おっはよ〜狩屋っ! 何、ボーっとしてんの?」
「うわぁあ!!? …あ、いや、別に…」
目の前に天馬君の顔がドアップで映る。それに驚きすぎて椅子がガタッとなり、引っくり返りそうになった。
「まさか…恋とか!!?」
寝ぼけてたからに決まってんじゃん。
「…何でそうなる。てゆーか天馬君何で来たの」
「えー?狩屋がボーっとしてたから?」
「なになにー?狩屋が恋!?」
「えっ!? うそっ!!」
天馬君の返答と同時に信助君と空野さんがやってくる。何でみんなそんなに“恋”って言葉に過剰反応すんの…。
「だから違うって!信助君と空野さんまで…」
「「このクラスの人??」」
「だぁぁもう、違う!!」
「「……つまんない。」」
…イラッ。
俺の中で何とも言えない感情が渦を巻く。
「…あ!そう言えば今日も神童先輩と武藤先輩、一緒に登校してたね〜!」
「いつもだから当たり前でしょ!」
俺の前で思い出したように言った天馬君の言葉を空野さんが即答して答えた。
「…ねぇ、その神童先輩の彼女、女子にまできゃあきゃあ言われてるけど何なの?」
「武藤先輩?武藤先輩は…可愛いくて、おまけに誰にでも優しいから男女問わずモテモテだよ!」
「ふーん…」
誰にも優しくて男女問わずモテモテ、ね……何かめんどくさそ。
「えっ、何!? もしかして武藤先輩を好きになったの!?」
空野さんが俺の机をバンッと叩き、軽く身を乗り出した状態で聞く。
「は?……違うし…ただ聞いてみたかっただけだよ。空野さん、こういうこと結構知ってそうだったからなんとなく…」
「狩屋が疎いだけでしょ。」
「天馬君…」
…酷くない?突然。そう思いながら俺は荷物をぱぱっと片付けて立ち上がる。よし、そろそろ部活に…あれ、今日……?
………。…あ!俺、今日用事あるんだった!!?
「狩屋〜、そろそろ部活行こー!先輩たちに怒られるよー!」
「あ、天馬君!俺、今日そう言えば用事あったから部活休むってキャプテンに伝えといてくれる!? んじゃっ!!」
俺は天馬君にそれだけ言い残すと急いで教室を出た。ヤバイ急げ!!廊下を走って靴箱へ向かう。
だけど。途中で誰かの肩にぶつかってしまった。
「あ…っ」
「わ、すいません…!」
ぐつかった衝撃で相手の持っていたプリントが床にバラバラに落ちてしまった。
俺はすぐに謝り相手の顔を見てみる、と。朝、神童先輩と一緒に登校していた武藤先輩がいた。
髪の毛の色は真っ黒で、胸辺りまでのセミロング。パッチリした目で首を傾げてこっちを見ていた。間近に見ると可愛い顔してるな。
「あの…、?」
「え?あ、すいませんケガはありませんか!?」
「あ、いや、大丈夫だよ…私こそごめんね?ちゃんと避けられなかったから…」
「いえいえ!俺が悪いんです!」
そう謝りながらバラバラに散らばったプリントを拾う。
「あ、あの…キミ…。…何か急いでなかった?そっちの方に行きな…?」
「……?…あーーー!!!」
そう言われて思い出し、勢いよく立ち上がる。そうだった、用事!!
「ここは、私だけでも大丈夫だから。行って?」
「え、でも…」
「大丈夫だよ。私は急いでないから、ね?」
先輩は俺のほうを見ながらにっこりと微笑んでそう言った。
「ありがとうございます!この恩はいつか必ず!!」
俺はそう言ってまた走り出した。…ヤバい。何あの先輩。空野さんが言ってた通りだったけど…
超優しいし、何よりあの笑顔。絶対、そこら辺の女子よりも可愛いだろ…。………。俺としたことが、なんたる不覚。
…最初は……そんなんじゃなかったのに…。
▲ ▼ ▲
「ありがとうございます!この恩はいつか必ず!!」
そう言いながら、走っていく水色の髪の男の子。その姿が面白くてつい笑ってしまった。
「(恩って…鶴の恩返しみたい…)」
あの男の子…確か、拓人と同じ部活の子だったっけ…?あれ、違うかな?
……あの子も、私達の事知ってるんだろうな。
私はいつまで、この状況に耐えられるんだろう。もう、そろそろ精神的に限界が近いかもしれない。
そう思いながら全てプリントを拾い集めて立ち上がる。
「紗雪」
声のする方へ振り返ると、拓人の姿があった。
「…どうしたんだ?」
「あ…大したことじゃないよ。途中でプリント落としちゃっただけ。今拾い終わった所!」
パシンッ。そういい終わると同時に頬に痛みが走った。
「今日も、いつもの場所でな…?」
「………うん。ごめん、ね…」
周りからは、お似合いのカップルだねとか、仲良いねとか言われる。…違う。それは嘘。
私たちはお似合いなんかじゃない。周りからそう思われるように見せてるだけ。
私は…。私は拓人なんか……好きじゃない。
───────……
暗くなった公園。たった1つの街灯がこの小さな公園の地面を照らしている。
「んっ…」
そこに、2つの影と、小さなリップ音だけが響く。
毎日、毎日。好きでもないのに無理矢理キスされる日々。何度も…何度も。
でも、これはまだいい方。
「んぁっ…ふ…、」
息が苦しくなって酸素を求め、つい口を開ければ拓人の舌が入ってくる。私なんかの力じゃ、当然サッカー部である拓人の力に勝てる筈がない。
このせいで体はあまりこういうことに拒まなくなってしまった。
拒めない理由はまだある。てゆーか拒むと…
「はぁっ、はぁ…っ、拓人、も…無理…っ」
「……っ、」
───バシンッ
「うぁっ…」
そう、暴力を振るわれる。
───ドカッ
「いっ…」
だから毎日、最終的には傷だらけ。顔よりも、腕の方が凄くて、アザや傷が沢山ついている。これが1つ目の拒めない理由。
そして、もう1つは…
「はっ…また…やってしまった…っ」
拓人は泣きながらごめんと謝って私に抱きついた。
「ごめん、ごめん紗雪」
「うん、大丈夫、大丈夫。いいよ拓人…いつも大丈夫って言ってるでしょ…?」
静かにそう優しく言って拓人を抱きしめ返す。
拓人は今、精神的に不安定。親からのプレッシャーとか、サッカー部のキャプテンとしての責任、他にも色々な事が拓人を精神的に追い詰めてる。
それに、親からDVされているって拓人本人から聞いたことがある。やっぱり、家族とは一生向き合っていかないといけないものだから、きっと毎日が辛いはず。
だから私が拓人の側に居て、拓人が少しでも安心できるよう居場所を作ってあげないと…。…でないと、拓人が壊れてしまうから。
拓人は今、私が必要なんだ。だから…だから私が、拓人の気持ちをしっかり受け止めてあげないといけない。
これが、2つ目の私が拓人を拒めない理由。
好きじゃないって言ったのは本当だけど…でも、拓人の役に立てるなら、今は何だっていい。
……何でだろうね。最初は……本当にアナタが好きだったのに…。
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