隠している理由。
今日も1人で雷門へ登校する。
あれから、先輩の顔が頭から離れない。多分、俺は先輩を好きになってしまった。
でも、武藤先輩は神童先輩と付き合ってる。だから、俺の入る隙なんてないし、好きになってもどうする事も出来ない…。そんなことでずっとモヤモヤしていた。
…仲良くだったらなれるかな。
いつも人とは関わりたくないと思っていた俺でも何故か武藤先輩とは仲良くなりたいと思っていた。
「…あれ?」
100mくらい先にいる人って…もしかして武藤先輩!? 近くに神童先輩……いない!!
こ、これは…近づけるチャンスなんじゃ…!!
そう思い、1人ガッツポーズをし、武藤先輩を走って追いかけた。
「武藤せんぱーーい!! …せーんーぱーいーっ!!!」
…………気付かねぇ!!!!! 鈍い!!!
叫んでるのに全然気付かないよ、あの先輩!!
「武藤先輩っ!!!!!」
「はっ、はい!!」
やっと気付いた。俺は先輩の方まで走って行ってその場で呼吸を整える。
「あ、昨日の…。ごめんね、昨日はちゃんと間に合った?」
「はい、お蔭様で…」
「そっかぁ…良かった!」
先輩はにこにこ笑いながら俺に向かって言った…って、あれ?
「…先輩、その頬に貼ってある湿布、どうしたんですか?」
俺がそう言うと先輩からさっきの笑みが消えて苦笑へと変わった。俺は一瞬した悲しい顔を見逃さなかった。
先輩は湿布の上から頬をさすって言う。
「これね…朝ご飯のアジの開きがいきなり噛み付いてきてさー」
「はい!!!??」
What!? アジの開き!? なんでアジの開き!?
そんなことあるわけっ、…ああ、なるほど。何か言えないことでもあったとか…。
聞かれたくないような顔してるし、この話には触れないでおこう。
てゆーかこの人、嘘つくの下手すぎだろ…。
「あの…先輩は神童先輩と付き合ってるんですよね?」
「…ふふっ、うん…!(…やっぱり知ってたか)」
先輩は少し照れながらにっこりと笑った。自爆。
可愛い顔で…しかも笑って言われた…
「あ、えと…狩屋君…?」
「はい、何ですかぁ?……って、え?先輩、何で俺の名前…」
「あ…拓人から聞いたことがあって…後、霧野君がぐちぐち言ってたこともあったし…。…違ってたらどうしようと思ったけど、狩屋君でいいのかな…?」
「はいっ!狩屋マサキです!!」
先輩が俺の名前を…俺の名前を知ってたぁぁぁあああ…っ!!!
「…良かった。あ、私は武藤紗雪です。改めてよろしくね」
武藤先輩は軽くぺこりと頭を下げた。何か1つひとつの行動が可愛い。
それに先輩の下の名前、紗雪って言うんだ…可愛い名前…。
てゆーかぶっちゃけ今、猫被り通すか本心出そうか迷ってるところだったんだけど、あの女顔のせいでバレてるからもう猫被ったところでどうしようもねぇな。いつかあの女顔に地味な嫌がらせして謝らせてやろう。
そう思いながら先輩と歩いて雷門中へ向かう。
「…そう言えば神童先輩は?一緒に登校してないんですか?」
「うん、いつもは登校してるけどね。委員会で早く行かなくちゃいけなかったりとか…拓人いろいろ大変だから…」
「へぇ…(…いつも、ね)」
「…あ。私そう言えば早く行かなきゃいけないんだった…」
先輩はあっ、と思い出したような顔で言った。俺は、なら今からでも急いで行って下さいと先輩に向かって言うと、ありがとう、ごめんねと苦笑して行ってしまった。
名残惜しかったけど仕方ない。てゆーか、あの人よく謝るよな…
「朝から神童の彼女に熱心だねー、かーりーやくん♪」
「………ちっ」
「今お前、舌打ちしたろ。」
後ろから突然の声がしたと思ったら女顔先輩の姿。おまけににやにやしてるし。
俺は舌打ちなんかしてませんと言って早足で歩く。よりによってさっきのをこの人に見られてたとか最悪だ。
「お前、武藤に興味あんの?」
「は?どこでそんな考えになるんですか。眼科と精神科をお勧めしますよ。…昨日ぶつかっちゃったんでいろいろ迷惑かけてしまったからお礼言ってただけですよ」
「ふぅ〜ん…」
…こいつウゼェ。
「…霧野先輩はいつも1人で登校なんですか?」
「んー、まぁな。小学まではいつも神童と登校してたけど、中学になって武藤と付き合いだしたからさ、邪魔かなって思ってな…」
「へー寂しい人ですね。同情しますー」
「おまっ…」
先輩さみしー!いろいろ言い合っていると、靴箱について、霧野先輩と別れる。
俺は、教室へ向かっていつものスピードで歩いた。何か、今日は先輩と少し近づけたかも…!!
▲ ▼ ▲
取り敢えず、良かった。
今日は、拓人は放課後も委員会で長くなりそうだからって帰りは別々に帰った。ちなみにサッカー部はコート整備があるとかなんとかで(明日も)休みらしい。最近、何か委員会が忙しいって言ってたから多分最低2日ぐらいは別々になると思う。
その間、拓人が1人で大丈夫かな…と心配になる反面、私の身体の傷が少しでも治るといいな…なんて、思ったりもする。
私は2階の自分の部屋からベランダに出て風にあたった。
ここは、自分の家の中で最も好きな場所って言うのかな…何も考えずにただ外のいつもの風景をぼーっと眺めておける。今のこの時間帯は特に。涼しいくらいで、夕焼けの空が段々暗くなっていき、星が輝きだすまでをじっと見ていられる。
でも最近は、拓人とずっといたから、こんな時間にここでのんびり出来ることなんて滅多になかった。…やっぱり落ち着く。
「…あ、1番星、かな…?」
私の呟いた言葉は誰にも届くことなく消える。………。でも、いくらここが静かで落ち着くとは言え…やっぱり1人は寂しいな…。
お母さんもお父さんも私が寝てる時間帯…夜遅くに帰ってくる。だから1人暮らししているも同然。まぁそのお蔭で、この腕の傷とかもバレてないからいいんだけれど。
「くっそ〜〜、せっかくの部活休みを…霧野先輩のばぁーか!!! 今度ぜってー何かおごらせてやる!!」
そう言いながら向こうから速足で歩いている見覚えのある男の子。
「……狩屋君?」
印象的で綺麗な水色の髪が私の家の前まで来た時、声をかけてみた。ちょっとビックリするかな…?
すると彼は立ち止まって後ろを振り返っていた。
「…?…今、俺の名前呼ばれた気がしたんだけど…」
「狩屋君…!上だよ上!」
「え、上? ……………。」
狩屋君が上を向くと私とばっちり目が合う。すると、何故かこっちを見たまま目をぱちぱちしていた。
「………武藤先輩!!!!!??」
「そうだよー。武藤だよー」
狩屋君の反応の面白さに笑いながら返事を返す。ちょっとビックリどころか、かなり驚かれました。
←
→
TOP
list
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -