胸騒ぎ
「…ただいま」
「お帰りなさい拓人…あら!紗雪ちゃんじゃない!久しぶりね」
「こんにちは!お邪魔します…」
私は拓人について家に入ると拓人のお母さんが笑顔で出迎えてくれた。拓人と似ててとてもきれいな人。
「後でお茶もって行くわ。紗雪ちゃん、ゆっくりしてって頂戴ね」
「あっ、お構いなく!!」
拓人のお母さんはにっこりと微笑んでそう言った。拓人は何も言わずに黙って家に上がると2回に上がっていく。私はそれを追いかけるようにして付いて行った。
「…拓人のお母さん、ホントいつ見てもきれいだね」
「そうか…?」
拓人の言葉にうん、と笑って返す。あんなに優しそうなお母さんが、拓人に暴力振るってるなんて到底思えないんだけどな…
階段を上がって拓人の部屋に入る。拓人の部屋は前来た時と、全然変わってなくてきれいだった。やっぱり広いな…
「(そう言えば今更って言うか、マサキ君にメールで言われて気付いたけど…、本当に勉強だけで終わるのかな…)」
「…紗雪」
そう思った途端、後ろから急に抱きしめられる。そうだよね、きっとこうなると思ってた……ほんの少し。
「今日、屋上に来いって誰かに呼ばれたらしいけど、何だったんだ?また告白?」
拓人の声が私の耳元で聞える。…告白? そんなんじゃない…でも、拓人になんて言えば…
「ぁ…えと…」
───コン、コンッ
何て言おうか迷っていると、突然のノック音。拓人は私から離れて大きく溜め息を付く。入るわよ、と言ってお盆を片手に扉を開けて拓人のお母さんが入ってきた。
「お茶とお菓子を持ってきたわ。今日、丁度ケーキを買って帰ったから…食べてね?」
「ありがとうございます」
私がそう言うといいえとにっこり笑ってミニテーブルにケーキと飲み物を置いた。
……あれ?私の目に飛び込んできたのは、拓人のお母さんの腕。拓人のお母さんにも私と同じような痣や傷があった。
拓人のお母さんは、ケーキと飲み物を置くと部屋から出て行く。……何で?何で、私と同じような痣を…?でも、拓人は前に、暴力振るわれてるって言ってたし…。
「それで、今日の昼休みはどうだったんだ?」
あれは嘘?…いや、でも拓人が嘘をつくような人間じゃない事も知ってる。私が1番よく知っている。じゃあ拓人が抵抗したから…?いや、それでもあそこまで痣や傷が酷くなるはずなんてない。何が何だか分からなくなって、頭が混乱する。
「紗雪…聞いてるのか?」
私は拓人の言葉にも気付かずにただ思考を働かせていた。何で、拓人のお母さんの腕にあんな痣や傷が…
「紗雪」
ようやく拓人の声に気付いてはっとした時には、すでに遅く、
「んぅ!? ……んぁ…、ふぁ…」
拓人は何度も何度も角度を変え、私にキスをした。
「…はぁっ、…紗雪、聞いてる?今日の…告白だったんだろ?」
「……ぁ、」
………きす。嬉しくなんか、なかった…。マサキ君にした時とは全然違う。私はふと今日の屋上での出来事を思い出してしまった。
「…っ」
「………。」
慣れてたはずなのに…いいものだったんだなって思ってたのに……拓人とは、すごく嫌だった。そう思っているうちに何故か段々目頭が熱くなっていく。私は俯いて目をぎゅっと瞑った。何で、何でこんなに…っ、
「…紗雪、」
「へ、わぁっ!!?」
拓人の声が聞えた時にはもう遅かった。ドンッと勢いよく押されてドサッと言う音と共にそのまま拓人のベットの上に倒れ込む。そして、またキスをされる。さっきよりも、長くて、深いキスを。
「んっ…ふ、…ん〜〜っ」
苦しくて拓人の胸板を叩くけどびくともしない。息が出来ない事により力が抜け、胸板を叩く事さえ出来なくなった。唇は離れないまま、更には私の唇をわって拓人の舌が入ってくる。部屋には厭らしい音が響くだけ。
「はぁ、っ…ん、ふ…」
ヤダ、嫌だよ…でも抵抗したら拓人が壊れちゃう…。どうすればいいのか分からなくて、抵抗も出来ずされるがまま。溢れた涙が、ただただ静かに零れ落ちた。
『どこにいても…俺が先輩を必ず守ります…!!』
どこにいても、助けてくれるんでしょ…?
なら助けてよ…マサキ君…っ。
▲ ▼ ▲
「ったく…何でこんな時に忘れ物すんだよー…」
誰もいない教室でぽつりと呟く。忘れ物を取りにわざわざ教室まで戻って取りに来た俺は忘れ物を取ると鞄の中に終い、教室から出て階段を降りる。階段を降りて靴箱に向かおうとすると、何故か近くの職員室から先生が出てきた。ウチの担任だ…よし、帰ろう。
「あ、狩屋!」
……。うげー…見つかった…。俺は小さく溜め息を付くと振り返って担任を見た。
「何ですか?」
あくまで笑顔。つまり猫被り発動中だ。
「お前ってサッカー部だったよな?」
「はい、サッカー部ですけど…どうかしたんですか?」
「…悪いが、神童に渡し忘れたすごーーー…く大事なプリントを届けてくれないか?」
うわー、俺、乙。何か嫌な予感がしたんだよな…。てゆーか、すごーーー…く大切なプリントなら渡し忘れんなよ!
「……いいですよ」
あまり乗り気ではなかったが、渋々OKしてプリントを受け取った。
「いやー、ホントに助かった!テスト週間なのに悪いな!!」
本当に悪いと思ってんなら最初から頼むな、と思いながら担任と別れ、神童先輩の家に向かう。
『マサキ君…っ』
……ん?今、誰か俺呼んだ?そう思って後ろを振り返ってみたが誰もいない。一応、有り得ないけど上も見てみる。当たり前だよな…空だよ。
こんな時まで武藤先輩のことを思い出す。あーあ、これじゃあ勉強なんて集中して出来るとも思えない。俺もう今回のテストだめかもしんねぇな。
あ、そうだ。プリント渡しに行ってもいいか、先輩にメールして聞いてみよっと。同じサッカー部だから神童先輩のアドレスも当然知ってるけど…うん、返信の速さ的にもね!
「えっと…『神童先輩に大事なプリント渡せと先生から預かったので今からそっちに行ってもいいですか?…後、そっちの状況も大丈夫ですか?』…っと、まぁ、こんな感じの文章でいいだろ…」
そう言いながら送信ボタンを押す。ケータイを閉じると、前の方で数人の女子が歩きながら話をするのが聞えた。
「そう言えば見たー?今日の5限目―っ!」
「見た見た!授業中に神童君が武藤さんに手紙渡してたよねー!!」
「そのこと紗雪に聞いたら勉強しようって誘われたって言ってたよ」
「嘘!? じゃ、紗雪ちゃんOKしてたっぽいし、神童君の家に行くのかな?」
「うわー、それ絶対に勉強だけじゃすまなさそー!」
「それ思った!! 何するんだろうねぇー」
…うわぁ。女子ってホント声でけぇよな…。武藤先輩と神童先輩がそんなこと…、……。
いや、ないと信じたい!そう思いながら歩いていると、メールの着信音が鳴った。ケータイのディスプレイには“武藤先輩”と言う文字。あれ、返信いつもより遅い。俺は少し驚きながらケータイを開き、メールの内容を見た。
From 武藤先輩
──────────
ますけめ
……は?ますけめ?
メールにはたった4文字で『ますけめ』とだけしか打ってなかった。『ますけめ』って何だ…!?……何だか物凄く胸騒ぎがする。とても嫌な予感がしてならない。あーくそ…っ、何でこんなに落ち着かないんだよ…!!
行ってみよう、神童先輩の家に。
「だあああーもう!ちくしょう!!」
俺はその場でそう叫んで神童先輩の家に向かって走り出した。
先輩、無事でいて…。そう願いながら。
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