神様はいない | ナノ

第七話 1/5
「しばらく顔を見せんから心配しておったよ」

 そう言う火影様をいざ目の前にするとやはり緊張した。

「申し訳ございません。…折り入ってお話があるのですがよろしいでしょうか」

 彼が頷くのを確認し、ひと呼吸おいてから言葉を紡ぐ。

「わたしは今、原因不明の手足の痺れに悩まされています。それにより忍者としての活動に影響が出てきています」

 火影様はあっさり頷いて見せた。それもそのはずだ。この方が知らないわけがない。前回の任務については報告が上がっているはずだ。わたしの容態とともに手足の異変のことも全て耳に入っているだろう。

「だが、まずはお前を労いたい。この前の任務はご苦労であった。他の者が命を落としてしまったが…敵の殲滅はお前なしではなかったと思う」
「いえ…わたしは…はたけ上忍に救っていただいた身ですから」
「分が悪い相手に対して健闘したと聞いておるよ。…それで、じゃ。その時の経験から聞こう。七瀬は自分のこれからをどう考えておる?」
「どう…とは」
「その手足の痺れを考慮した上で忍者としてやっていけるのかどうか、じゃな」

 胸中にて、その問いに対しての答えはすぐに出た。だけど口からは出せなかった。忍者を辞めるべきである。そう言えば、すんなり通るだろう。実際そうしなければならないのだから。この体で任務に出ても皆の足を引っ張るか、すぐに戦死するに決まっている。…だけど、

「…わたしは、忍者を辞めたくはありません」

 真っ直ぐに火影様を見ることができたが、自分の声は震えていた。何故だろう。昨日からやけに涙腺が緩く、気を抜けば泣いてしまいそうになる。

「ならばどうするつもりじゃ」
「それは…わかりません。本当は辞めるべきだということは理解しています。ですがどうしてもそうは言いたくありません」
「ふむ…珍しく頑固よの」
「我が儘を言って申し訳ございません。それでもわたしは最後までこの里の忍者でありたい。こんな自分を必要としてくれた人たちの役に立ちたい。…おこがましいですが、そう思ってやまないのです」

 目を開けていられなくなって瞼を閉じると、一筋、頬に伝ったのがわかった。火影様からの返事はない。しばらくそうしたまま、じわりと滲む涙をこらえる。



「…実は、ある者から提案があってな」

 否定とも肯定とも違う言葉に思わず目を開ける。そこにいる火影様は表情を崩さず、真剣な顔つきだった。

「忍術や幻術、体術すべてに不得意な分野がなく、それは非常に基本に忠実である。変な癖もなくチャクラコントロールも上手い。その他、忍具や薬など様々な術に対する知識も深く、冷静な性格でそれらを適切に活かすことができる。そして私欲は挟まず、いかなる場でも中立で公平である」
「…それは一体」
「お前に対する評価じゃよ。まあいささか感情表現は下手なようだが…それを踏まえて七瀬。お前、師になる気はないか?」
「師、ですか?」

 聞き返すと彼は頷いた。突然の提案に、間抜けに呆けてしまうことしかできない。

「アカデミーの講師として、じゃ」

 ーーー何も戦前に立つことだけが忍者じゃない。聞いたばかりのはたけさんの言葉がすっと思い出された。

「ですが…チャクラを使うと手足の痺れが…そんなわたしでも教えられるものでしょうか」
「それは追い追い様子を見つつ、どの講義を担当するか決めればよかろう。何も全てがチャクラを使うものではない。…ただ諦めるのもどうかと思ってな」
「それはどういうことでしょうか」
「原因がわからぬ病だが、まだ治らないと決まったわけではなかろう?」

 目から鱗が落ちそうだった。この手の痺れが治る可能性がある。…そんなこと考えもしなかったからだ。わたしはまだやれる? この里のお役に立てるのか?

「…本当に諦めないでいいのでしょうか」
「それはお主が決めることじゃ。諦めないのならばこちらはもちろんサポートしよう。…今回はすぐに返事をもらえそうかの?」

 火影様はにやりと笑った。わたしは一度だけ深く頷いた。声は出せなかった。口を開けば嗚咽が漏れてしまいそうだったからだ。現に涙はぽろぽろと溢れてきている。口元を手のひらで覆って少し俯く。
 わたしはまだ、この里の忍者でいられる。それがこんなにも嬉しいことだったなんて初めて知った。
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -