神様はいない | ナノ

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 食事をすると次第に眠たくなってくる。目を擦っていたら、はたけさんに気づかれてベッドを指差されてしまった。

「いえ、大丈夫です。もうこのまま火影様のところへ向かいます」
「そう。じゃあやっぱり何か履かないとね」

 足元はぴったりめのものを拝借し、さらには腰にウエストポーチを巻いてずり落ちを防止した。

「七瀬はちょっと細すぎるんじゃない?」
「意図せず絶食してしまったので…いつもはそんなことありません」

 こんなにぺったりとしたお腹は自分でも見たことがない。理由もなくそこをさすった。顔を上げると髪が視界の端で揺れる。いつもよりサラサラなそれに触れてみた。ドライヤーで乾かすとこうなるのか。

 羽織るものを持ってきてくれたはたけさんを見上げ、その気だるげな目をじっと見つめる。
 有り難い。それはもちろんなのだが、こういうこと、つまり世話を焼かれたことがあまりないので、反応に困るのが正直なところだ。

「なに?」
「いえ…面倒見いいんだな、と思っただけです」

 自分ひとりなら、朝はパンをトーストして牛乳で流し込むように食べている。昼はおにぎりなど簡単なもので済ませることが多い。夜は何か炒めるかお惣菜か。誰かと外食することもあるけど、月に一回あればいいほうだ。しかも、それのほとんどがはたけさんである。

「七瀬は自分のことにあんまり構わなさそうだよね」
「まあ…衣食住やお洒落なんかにあまり興味はありませんね。みっともなくならない程度には気を使いますが」
「そんな感じするね。でも、ま! いいんじゃない。お前らしいよ」
「はあ…ありがとうございます」
「何でそう微妙な反応なのよ」
「そのようにフォローを入れられたことが初めてだったので、つい」

 袖を通した羽織りはやはり大きかった。はたけさんの身長が高いせいもある。ふわりと香る、いつもと違う匂いになんだか心がくすぐったくなった。

 玄関まで見送られ、深々と頭を下げる。結局しっかりとお世話になってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、彼はそこまで気にしていないように見えた。

「ありがとうございました」
「気をつけて。送っていきたいけど俺も昼から任務あるからさ」
「本当にもう結構です。十分すぎます」

 頭を上げようとしたら、それを遮るように重みが乗ってきた。上目遣いになりながら確認すると、はたけさんの大きな手のひらが自分の頭の上へ乗せられていた。じんわりとした温かさが伝わってくる。ちらりと、はたけさんへ視線をやると、その目は優しく細められ、これからの目的のせいで少し緊張していたのが和らいだ気がした。

「…わたし、忍者をやめないといけないでしょうか」

 あのとき、屋上で返ってこなかった言葉を聞きたかった。ほんの少し言い方を変えて、はたけさんの反応を待つ。少しの間をおいて笑うことをやめた彼は、わたしの頭をいささか乱暴に撫でた。

「大丈夫だよ」
「はあ」
「何も戦前に立つことだけが忍者じゃない」
「…それは、どういうことでしょうか」
「いや…ま、火影様に会えばわかるよ」
「誤魔化しましたね」
「ごめん、ごめん」

 すんなりかわされてしまい、こうなるともう答えは聞けない。諦めて、また頭を下げる。

「いってらっしゃい」
「…行ってきます?」
「なんで疑問系なの」
「しばらくそういう声はかけられたことがないので、合っているかな、と」
「合ってるよ。…ったく、そう言うからにはちゃんと帰ってきてよね」

 温もりが離れていく。あのときは、あんなに苦しく思ったのに今はそんなことない。

「もうあんなことはしません」
「うん、お前はやるときはやる奴って知ってるよ」

 その言葉に自然と口角が上がる。

「それはどうも、感謝します」

 その温かい場所に背を向けて、一歩を踏み出す。心は晴れ晴れとしていた。
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