神様はいない | ナノ

第五話 1/4
 ピチチ。そう鳥がさえずるのを聞いて、薄っすら瞼を持ち上げる。カーテンの隙間から差し込む光の強さに朝が来たことを知った。ゆっくりと上体を起こす。広がるのは、見慣れた部屋の内装だった。



 ひとりで住んでいる、このこぢんまりしたワンルームへは昨日帰ってきた。
 入院は治療と検査などを含めて2週間ほどと聞いていたが、腹の傷は医療班の懸命な治療によりもう塞がっていること、経過が良好であることから少し早めに退院の運びとなった。しばらくは定期的に通院しなければならないが、毎日真っ白の天井を見続けるよりはずっとマシだと、その時は思った。

 ベッドに座り込んだまましばらくぼうっとしていたが、歯でも磨こうと足をフローリングにつける。ひんやりとした触感。ぺたぺたと足音を立てながら洗面台へと向かう。そのつるりとした陶器の前に立つと、対面に設置された大きめの鏡がある。その中に映る自分と目が合った。
 浮腫んだ顔、腫れぼったい目。見ていられなくなって視線を外す。
 念入りに歯磨きし、冷水で顔を洗う。タオルで水分を拭いながら、濡れた手で髪に触れる。少し跳ねた毛先を適当に直した。未だ頭は冴えない。

 小さめのダイニングテーブルを挟むように椅子が2脚。その片方に腰掛けて、今朝起きたときと同じように何もしない時間をただ貪る。
 言わないといけない。忍者を辞めること。チームメイトや、火影様、母親に言わなければならない。頭ではわかっている。けれど足は動かない。

 右手を顔の前へ持ち上げて、ぎゅっと握り締める。力を抜くとだらりと開いた指先は、チャクラを込めさえしなければ確かに痛まない。忍者でなければ今まで通り過ごせる。でも、今まで通りってどんなだったっけ…。
 すでに自分の生活の大半を占めていたものを辞めたとして、これまでと同じように過ごせるだろうか。その答えは考えずともすぐにわかる。

 朝は5時には大体起きている。身支度を整えて朝食を摂り、任務へ。それがなければ修行をし、気がつけば昼になっている。
 昼食を済ませたら午後からは忍具の手入れをする。忍術の知識や薬の効能を知るために勉強することもある。そうしていれば日が傾いて、ようやく家事する気になるのだ。洗濯物はどうせ室内干しだし、使用した食器なんかも一人分だと知れている。食材の買い出しも週に1度すれば十分だ。次の日も早い。適当にそれらを済ませて風呂に入り、ベッドの上でストレッチをしながら窓から空を見る。
 電気は風呂上がりにはもう消している。月がよく見える日はぼんやりと明るい。そして横になってしばらくすると気がつけば朝になっている。そんな毎日から忍者としての自分を抜き取るとどうなるだろう。
 考えて、やめた。うんざりした。自分に嫌気がさした。

 机の上に突っ伏して瞼を閉じると、真っ暗でとても静かで、自分はひとりなのだと思い知らされた。
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