神様はいない | ナノ

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 医者からの宣告を聞き、よくわからない感情を胸に抱いた。わたしは生きている。普通に動けている。でも、忍者としての自分はもう、死んだも同然だ。それなら自分の存在価値とは?
 這いだせなくなるほどの深い沼に突き落とされたような気分だ。

「気を強く持ってください」

 説明の最後に放たれたその言葉に顔を上げると、目の前に座る医者はさも自分のことのように悲しそうな顔をしていた。
 …なるほど。こういうときはそういう表情をすればいいのか。そう思ったが口角は上がり、唇は弧を描く。

「そうなんですか」

 他人事のように返事をした。



 不意に頭をよぎったのは、はたけさんだった。彼に報告しないといけない。漠然とそう思った。
 時間だけはたくさんあったから、彼が来るまでに自然と考えてしまうことは一緒だった。忍者を辞めたとして、わたしには何が残るのだろうか。そんなことばかりだった。その後は言いようのない不安に襲われた。自分が生きている意味はなんだろう。



 ーーーこんなとき、はたけさんなら? 刹那、心が静寂する。あの人なら自分に答えをくれるんじゃないか。あの時のように救ってくれるんじゃないか。
 そう思うだけで、水面に落ちた雫が波紋を広げるように、穏やかな気持ちで満たされていく。早く彼に会いたい。そう思わずにはいられなかった。

 だけど、今一度冷静になってよく考えてみれば、医者が無理だと言っていることをはたけさんが覆すはずもない。そして当の本人であるわたしが無理だと言えば第三者が止める理由もない。だから彼が見せた反応は当たり前のことだ。
 わたしは何を期待していたのだろう。はたけさんに引き止めてほしかったのか? そうすれば自分が忍者でいる理由が、目的が見つかるから、願ってほしかったのか? ーーー自惚れていた? 彼なら導いてくれると。忍者としての自分を求めてくれると。なに、それ。

「…みっともない」

 また来るよ。そう言うはたけさんの笑顔を見て、自分もきっと同じものを返していたと思う。いつもそうしていたから、何も意識しなくとも笑えていたと思う。
 だから、もう会いたくない。酷い顔をしているのも、今抱いているみっともない気持ちも知られたくない。彼が最後に見たのは、笑顔を浮かべていた自分であってほしい。

 そこまで考えて、気付く。いつの間にか欲張りになっていたことに。
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