神様はいない | ナノ

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 自分が寝ているのか起きているのか。その境目が曖昧な時間をただ過ごす。昼夜問わず眠くなれば寝て、目が冴えていれば起き続け、日付の感覚がなくなった頃に火影様からの使いが来た。
 こちらの姿を確認し、驚いたように少し目を見開いたがそれをすぐに引き締める。

「火影様より一度姿を見せるように、と」

 家の戸を上げ、久しぶりに浴びる日の光は眩しい。こんな明るい道を歩いて進めるだろうか。

「…よろしいですか?」

 反応を見せないことに、いぶかしげに再度こちらへ呼びかけるのを聞いて口角を持ち上げる。

「明日中に伺います。そう伝えていただけますか」

 そう伝えると、使いの人は「確かに申し伝えます」と一瞬で姿を消した。出口を遮断すると、カーテンの引かれた部屋の中は闇に包まれる。
 ここから出たくはない。だけど最後の役目を終えるまでそうすることはできない。殻にこもることは許されないのだ。



 医者から指定された日に通院はしなかった。だって行ったところでこの病は治らない。原因がわからなければ手立てもないとあの人は言っていた。
 一度、自宅に自分が小隊を組むメンバーふたりが見舞いにきてくれた。体調が悪いからと扉を開けないまま応対し、詳しいことは何も話せないまま帰ってもらった。
 もうしばらく何も食べていない。食欲は湧かず、乾きに耐えきれず水は飲むけれど、何故か虚しくなる。生にしがみついているような気がするが、ポンとそれを投げ出すこともできない。

 わたしは何をやっている。何がしたいんだ。別に忍者という仕事に無理に括らなくてもいいじゃないか。それなりに上を目指してはいたが、天才には敵わないし限界もある。今までの日常を何かにスライドさせればいい。…そうは何度も考えた。
 その度に母を思い出した。父のことを誇らしげに話す、優しい笑みを浮かべるあの表情を。あなたにもそうなってほしい、と願う期待に満ちた瞳を。
 その次はチームメイトのことだ。彼らとは喧嘩もしたけど最後には「このスリーマンセル以外考えられねー」とわたしの肩をよく小突いてきた。その表情は怒っているように口角を下げていたけど、耳はいつも赤い。
 そして最後はいつもはたけさんだ。「ほんと真面目だよねえ」と呆れたように言う彼は、いつもわたしの成長を褒めてくれた。ふらりと現れ、肩を並べ、言葉の足りない自分の話をいつも聞いてくれる。最後には背中を任せるとまで言ってくれた。

 そんな人たちのためにもう動けない自分が不甲斐なく、そこで考えるのをやめる。あとはずっと自己嫌悪だ。ドロドロとした気持ちにまみれながら現実を逃避し、自分なんてどこに行っても結局はコミュニケーションがうまく取れずに失敗するのだとマイナスなイメージばかり頭の中に浮かんで止まらない。

 わたしはもう間もなく、必要とされなくなる人間なのだ。そう考えて止まない。



 ーーーハッと目が覚める。机に突っ伏したままいつの間にか寝てしまっていた。カーテンの切れ間から日の光が漏れていないのを見、恐らく今は夜だろうと目星をつける。変な体勢で寝ていたせいで肩がずっしりと重い。頭は冴えず、モヤがかかっているようだ。

 顔を洗おうと腰を上げるが、立ちくらみがしてしばらく机に体を預ける。しばらくしてなんとか洗面台にたどり着き、小さい明かりをつけた。
 鏡にぼんやりと映る自分の顔は酷いものだった。頬はこけ、濃い隈ができている。寝て、水も飲んでいるのに病人のようなその顔つきに笑いが漏れた。



 闇夜に紛れて、閑静な住宅街を歩く。あてもなくフラフラしていると、何故か自然に繁華街に足が向いていた。明かりが増え、行き交う人々は笑顔を浮かべている。そこへ混じる前に足を止めた。じっとそれを眺め、空を見上げる。

 ここでなはい。

 踵を返し、一歩を踏み出したところでまた目眩を起こした。体を支えるものはなく、そのまま地面に膝をつく。景色が回り、倒れそうになるのを両手のひらをついて耐えた。訳もなくボロボロと涙が溢れてくる。堪えきれない嗚咽が漏れ、そのまま土に額を擦りつけた。滑る水滴が地面を湿らせる。

 立ち上がることがどうしてもできなかった。
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