人の指の隙間から覗く 1/4 

「ーーーそれで俺さ、銀時に友美が好きだからそろそろ告るわって言ったわけ。そしたらアイツ"頑張れよ"って応援してくれたんだよ。良いやつじゃんって思ったらこの有り様だし本当ありえねーよな」

 ずず、とウーロン茶をすすりながら、わたしは相づちを打つ。コーラの入ったグラスを傾けて、しかめた顔で愚痴を言う友也くんはアルコールを摂取しなくともいい調子だった。
 実は中身はコークハイなのかな。いや、一緒にドリンクバー行って、確かにただのコーラの注入ボタンを押すのを見た。あれはソフトドリンクに間違いない。

 先日、友美に振られた彼は坂田くんに少し余所余所しい。そんな態度をとってしまうのも仕方ないと思うし気持ちもわかる。同じグループ内で一挙に2組もカップルが誕生し、その内のひとりが自分の好きだった人ならヤケになってもしょうがない。日々溜まっていく愚痴を吐き出す相手として白羽の矢が立ったのは自分だった。
 当然といえば当然だ。だってあの6人グループで、恋人がいないのはわたしたちふたりだけだもの。



 初めてのキスがなんの遠慮もないディープなものだったことに衝撃を受けてわけのわからない涙が零れそうになったら、背後で機器がバイブレーションする音が聞こえた。振り返ると、ぐしゃりとへしゃげた鞄から響いていた。
 近寄って中を見ると底に震えているスマートフォンがあり、布地を挟んでいるとはいえフローリングの上だったため、いつもより不穏な音を立てているように思えた。熱い目頭を擦りながら画面を見たら友也くんからのメッセージを受信していた。
 “明日昼からヒマ?”
 液晶に映るその文言に何度も目を通す。彼から予定を聞かれたことなんかなかったので、目頭から滲みかかったものが引っ込むほど驚いた。

 明日は取っている講義が午前中だけで終わる。自分はファミレスでバイトをしているがそれも夕方からだった。空いているといえばそうだし、嘘をつくような相手でもない。だからその旨を文字にして送信した。するとふたりで大学の近くのファミレスに行くことになり、今ランチタイム真っ最中の騒がしい店内で頼んだチキン南蛮定食を待っているところだ。

「あいつらよくも俺の目の前でいちゃつけるよな。もう昼飯一緒に食うのやめようかと思うよ」

 なあ? と同意を求められるのに小さく笑うことしかできない。痛いほど共感できるのにそうしないのは友也くんが、わたしが坂田くんを好きだったと知らないからだ。
 その気持ちはもちろんわたしも毎日体験している。同じような感情を共有してしまえば楽になるのかもしれないが、火に油を注いでしまいそうだし、一歩間違えば自分の傷口にも塩を塗られそうな気がしてあまり言う気になれない。

「いちばん意味わかんねえのは彼女ができたってのに、仲が良いとはいえ他の女に普通にちょっかいかけるってところだよ」

 言い終わる頃には、伏せられていた目がこちらを捉えていた。それに対してわたしはまた、はは、と小さく乾いた笑い声を上げることしかできなかった。

「七瀬、2限目の講義中になんかちょっかいかけられてなかった? アイツにさ」
「お待たせいたしましたー、チキン南蛮定食です」

 空気なんか敢えて読まない店員さんのお陰で、絡みつく視線から逃れられた。

 確かに、あれは少し厄介だなあ。湯気が上がる味噌汁に口をつけながら、昨日の夜から今朝までのことを思い返す。

 
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -