「えっ? 銀ちゃんに振られた?」
「ちょ、しーっ! 声が大きい!」
始業式から1週間後のこと。午前中の講義を終え、昼食を取るために友人たちと連れ立って食堂へと向かう。
お弁当持参組のわたしともうひとりを残して、他の人たちは購買へ行った。残った彼女、友美に最近元気がない理由をあんまりにも聞かれるので、知られても差し支えないほうを報告した。変なバレ方をする前に言わないといけないとは思っていたしちょうどよかった、と考えていたんだけれど。
「勢いでサラッと言っちゃったんだけど…でもそんな気してたしいいんだ」
「へえー…でも、なんか意外」
「わたしが坂田くん好きだったことが?」
「ううん、銀ちゃんがななこを振ったってことが」
それは一体どういうことだろうと言葉に詰まるわたしを見て、友美は少し躊躇いがちに口を開く。
「銀ちゃんって、来る者拒まず去る者追わずで有名なんだよ」
「…来る者、拒まず?」
「そう、彼女がいない時に告白されたら断ることないんだって」
「坂田くんって、今彼女は…」
「…いないって聞いたけど」
つまり、坂田くんが思わず拒んじゃうぐらい、わたしは射程圏外だったってこと?
まさかの情報に愕然とする。目の前が真っ暗になったような感覚に陥った。ーーー座っていてよかった。立っていたら倒れていたかもしれない。
黙り込むこちらに気を使ったのか、友美は今度のサークルのことに話題を変えた。
わたしたちのグループはみんな同じサークルに所属している。"何でもサークル"という名の通り何か楽しいことをしよう! というもので、週3日ほど活動している。彼女は明日はテニスをするらしいと話しており、空気を悪くしないように笑顔で相槌を打つが内心どうでもいい。入ってこない。
そうこうしていると定食やらパンやら購入したみんなが戻ってきた。それぞれが座るのを待ってお弁当を開く。坂田くんはわたしから一番遠い所に座った。何だか安心したような、モヤっとしたような変な気分になる。
でも、振られてあんなにも泣いたっていうのに思ったより平常心でいられた。それはやっぱりあんなことがあったからだろう。感謝したくはないけど、ちょっと有り難かったかも。泣かずに済むに越したことはない。だけど問題はサークルだ。
どうしよう…いや、元からお遊びみたいなサークルだったし、バイトだってことにしてしまおう。そうして本当にシフトに入る回数を増やしてしまえば丸く収まるはず。そう考えが行き着き、坂田くんとの接点を減らせるように画策した。