花さそふ
『随分暖かくなってきたなぁ…』
初春の麗らかな陽気に窓を大きく開け放ち、時折吹き込むそよ風を感じていたら…それに混じってこちらに近付いて来る小さな羽音が耳に届いた。
『ヒバード?』
たしか今日は雲雀さん屋敷にいたはず。
そんな事を考えていると、パタパタと窓から飛び込んで来たのはやはりヒバード。
天井近くを二、三度旋回した後私の手に止まった。
『どうしたの、私に会いに来てくれたの?…ん?』
可愛く首を傾げた小鳥は、クチバシに咥えていた物をぽとりと私の手の上に落とす。
それは小さな花だった。
『これは…桜?どこかに咲いてるのかな?』
私の言葉を聞くなり再び飛び立ったヒバードは、窓枠に止まるとこちらを見た。
「ソト、ソト、コッチ」
どうやら外に何かあるらしい。
『ちょっと待ってて』
突然のお誘いに少しウキウキしながら庭へと出た。
パタパタと、時々くるりと旋回しながら少し前を飛ぶヒバードに導かれながら広い庭を歩く。
『そういえば、こっちの方は来た事なかったな…』
広大な敷地故、知らない所があるのは仕方ないけれど。
その時、急に強い風が吹いた。
『わぁ…っ』
強い風に乗ってはらはらと舞うたくさんの薄紅色の小さな花びら。
この先に咲き誇るであろうそれを確信して私は走りだした。
春のやわらかな日差しの中、今を盛りに咲き誇る一本の桜。
その桜の下に佇む人物がいた。
「…やぁ」
『雲雀さん?』
…黒い着物姿の雲雀さんだった。
「ヒバリッヒバリッ」
「ご苦労だったね」
いつもの様に雲雀さんの頭の上にぽすっと降りた小さな黄色いふわふわに彼は声をかける。
『ご苦労…って、じゃあ雲雀さんがヒバードを?』
「うん。せっかく桜が咲いたからね。誰かが見てやらないと可哀想だろう?」
『ふふふっ…本当に綺麗ですね……こんな所に桜が植わっていたなんて知りませんでした』
「ああ…知ってる人間の方が少ないだろうね。今、君もその一人に加わった訳だ」
柔らかく微笑まれドキリと心臓が跳ねた。
うう…やっぱり雲雀さんの微笑みは素敵だなぁ///
あ、そうだ。
『ねぇ雲雀さん、お花見しませんか?とっておきのお茶淹れますよ』
「ああ…それも悪くないね」
(君となら、一人で花を眺めるより…きっと楽しいだろうね)
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