ラッキーアイテム

これの続き


最初は変な人だな、と率直にそう思った。『キセキの世代』なんて呼ばれる天才シューターで、正直面白くないな、とも。中学の時のこともあったけれど、所詮才能があるというだけのことじゃないか。きっとそんな人よりもっともっと練習して、もっともっと報われたくて、それこそ血の滲むような努力をして、それでやっぱり報われない人が居るのに、と。天才だからなんて理由で部活で我が儘三回許されるだなんてふざけてると思うことだってあった。
部活の後片付けが遅くなって、日も暮れた頃。もう残ってる人なんて1人として居ないだろう、そんな時間。ボールが床を跳ねる音が聞こえて、怪訝に体育館を覗き込んだ。もう遅いから早く帰った方がいいよ__そう言うつもりで。
覗き込んで言葉を失った。いくつ転がっているのか、一瞥しただけでは分からないほどの数のオレンジ。恐らく軽く__20、30は越えている。こんな数のボール、どこにあったの、とそれも勿論驚きだが、中に居たのがたった1人だったということにも驚いた。
黙々と1人シュートを打ち、時折汗を拭いながら真剣にゴールと向き合って。純粋に、何の妬みも混じることなく、緑間をかっこいいと思った。何かに真摯に向き合える人は、かっこいい。
ふと視線を感じたのか、緑間の目がこちらを向く。なまえを捉えて、その目は驚いたように見開かれた。

「名字、」

呼ばれた名前に一瞬体が硬くなるが、恐る恐る彼に切り出す。

「あ、えと、……もう、9時過ぎてる、けど……」
「ああ……もうそんな時間か。すまない、今片づけるのだよ」
「いや……いいよ。私片付けとくから、帰ったら。今までやってたなら疲れてるでしょ」

なまえがそう言うと緑間は一瞬躊躇したが最終的に「すまない」と言い置いて更衣室の方へ歩いて行った。
緑間の足音が聞こえなくなってからなまえは小さく呟く。

「……何本、打ってたのかな、」

練習が終わってもう一時間近く経過しているというのに。今日のメニューは特別キツかった筈だし、いつもは長時間自主練していく先輩たちも早めに切り上げていた。それなのに、誰も残っていない体育館で、1人黙々と。
……っと、そんなことを考えている場合ではない。早く片付けて帰らないと両親に心配をかけてしまう。ボール籠を引っ張り出してきて無造作に投げ入れる。もう少し丁寧にやりたいが、そこは時間との兼ね合いということで。
作業を終えて時計を見る。____これは盛大に怒られる。さぁっと顔から血の気が引くのが自分でも分かって、やばいやばいと内心大荒れで着替えまで済ます。
ああもう後は家に帰るだけだし適当でいいや。

「……名字、すまない手間をかけさせたか?」
「っ何で、緑間君がっ……!?」
「こんな時間に1人で帰すわけにはいかないのだよ」

ちょっと待ってさっきの今でその台詞は反則ー!!
人がちょっとキュンとかしちゃった時を狙い澄ましたかのようなタイミングでその台詞はずるいと思う。__というか、
はた、と自分の格好に気がついて顔が羞恥で赤く染まる。

「ごめん緑間君ちょっとタイムアウト!」
「は?」

どうやら暗闇で気づかれなかったらしいが、この格好は色々と駄目だ。リボンちゃんと結べてないし、スカートも適当に履いてきちゃったし、髪最悪だし、ブラウス第一ボタンまで留めてないし、襟とか裏返ってないか確認しなきゃいけないし。
ちょっとときめいちゃった相手に(というより異性相手に)、こんな醜態見せられるわけがない。いや恋だとかそういうの抜きで。最低限の身だしなみチェックにとりあえずの合格点を出し、緑間を振り向く。

「ご、ごめんね、ちょっと焦っちゃって。予想外だったから」
「そうか。なら構わないが……」

相変わらず怪訝な顔でこちらを見る緑間に微妙に引きつった笑顔で応える。



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