届いたその距離

「いくら奥手な真ちゃんでも流石にそれはねーだろ。俺騙されねーからな」そう言ってわざとらしく挑むような目つきをした目の前にいる高尾和成に、緑間真太郎は表情を苦くした。

「嘘なら冗談でもお前にこんな相談はしないのだよ」
「……え、マジなの?」

一転して真面目な顔つきになった高尾に頷く。高尾は意味を理解するように2、3秒間を溜めて__、こともあろうに盛大に吹き出した。

「何を笑っているのだよ高尾!」
「いや、ちょ……ぶふっ……これは笑うしかねーだろ! いっやー奥手だ奥手だとは思ってたけど、真ちゃんマジそりゃねぇわー!」
「こっちは真面目に相談しているのだよ!」
「無理無理ー! 小学生でもカレカノがいるこのご時世にどこに彼女との手の繋ぎ方を聞いてくる高校生が居るよ!?」
「うるさい!」

緑間は自覚しているのか、笑っている高尾から顔を逸らした。
秀徳高校バスケ部マネージャーの名字なまえと緑間が付き合い始めたのは約3週間前。付き合うまでの諸々の経緯は省くが、なまえの告白からめでたく交際を始めるに至ったのだ。そこに至るまでの高尾や先輩たちの苦労など、当人たちは知る由も無いが。
高尾は笑いを何とか収め、未だ仏頂面をしている緑間に向き合った。

「で、何だっけ?」
「二度も言わせるな。手の繋ぎ方を教えるのだよ」
「手ぇ繋ぐったってそりゃ普通に繋げばいいじゃん」

こうやって、とテーピングの巻かれた緑間の手を握ると、コンマ1秒で振り払われた。「やめるのだよ気持ち悪い」「ひでぇ!」これが彼らの日常会話である。

「そういうことを聞いてるんじゃないのだよ。その、繋ぐタイミングというか、言い方というか……」
「それも普通に手ぇ繋ごうとかでいいんじゃねーの?」
「言えるか!」
「いや言えよ!」

緑間は暫し沈黙して、小さく呟いた。

「言おうとは、したのだが、」
「おう」
「……言えなかったのだよ……!」
「何で!?」

緑間の話をまとめると、最近一週間の間、一緒に帰っている時に手を繋ぎたいと告げようとはするのだが、途中で詰まってしまって最後まで言えず、なまえに聞き返されると何だか恥ずかしくなってしまって「何でもない」と返してしまうらしい。
高尾は緑間の話を聞いて、「ああー、」とため息を吐いた。

「名字はあれで結構鈍いとこあるからなー……」
「なぜ伝わらないのだよ……!」
「そりゃ真ちゃんが最後まで言えてないからじゃねーの」

また1人で悶々と悩み出した緑間を横目に、高尾は首を傾げる。確かになまえは少々鈍いところはあるものの、緑間よりははるかに察しがいい筈であるし、普段ならそれくらいはちゃんと意図が掴めそうなものなのだが、と。



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