「それって誰のため?」



12月24日。

クリスマスイヴ。

遅番シフトの私は仕方なくってわけでもなく、密かにノリノリでサンタクロースの格好をしていた。

まるでライブ会場に行くかのよう、全身サンタクロースの衣装に身を包んだ私を見て、煙草を吸いにきた遅番の哲也さんが軽くそんな言葉を飛ばしたんだ。



「誰かのために見えますか?」

「うーん。見えちゃってるから聞いてんだよね?」



白い煙を横から吐き出して缶コーヒーを飲む哲也さんだってかなりかっこいい。

ぶっちゃけうちのマネージャー達はレベルが高いと思う。



「内緒です、哲也さんにバレたら啓司さんにバレるでしょ?そしたらもううちの劇場全員に知れ渡っちゃいますもん…」

「なるほど。ってことは、知られちゃまずい目上の人ってことか、そーかそーか、よかったね、サクラちゃん!」



ニコッて微笑まれて、やられた感満載。

元々IQの高そうな哲也さんに、嘘は通用しなさそうな気もして…。

苦笑いの私はサンドイッチの最後の一口を口に入れるとミルクティーで胃の中に流し込んだ。

と同時に鳴るスタッフルームの内線。

手前にいた健二郎くんが内線を取ると、「ちょお待っとってください」そう言って私を見た。



「篤志さんからですよ、サクラちゃん」



ドキンと胸が高鳴った。

健二郎くんから受話器を受け取って耳に当てる。



「はい…」

【サクラちゃん?】

「はい。お疲れ様です」

【うん、お疲れ様。スタッフみんなにクリスマスケーキ買ってあげようと思うんだけど、一緒に買いに行かない?】

「え、行きます!今すぐ戻ります!」

【はは、んじゃ待ってる】

「はいっ!」



電話を切るとそこにいるスタッフに言ったんだ。



「篤志さんがクリスマスケーキ買ってくれるって!ちょっと買いに行ってくる!」



盛り上がるスタッフをよそに私はスキップでスタッフルームを出て行った。

オフィスに戻ると財布を持った篤志さんがいた。



「よし、行くよ!」

「はいっ!」



と言ってもショッピングモールの中にあるうちの劇場だから下のケーキ屋さんに行くだけなんだけど。

お客さんに紛れて列に並びながら物色。



「どれが食べたい?」

「私ミルフィーユ!めっちゃ好きなんです!」

「メモっとくよ、それ!とりあえずみんなにはあの一口サイズのでいいよね」

「え?みんなには?」

「当たり前だろー。サクラちゃんには特別に買ってあげるから!後で二人で一緒に食べようね?」

「え、あの…」

「ちゃんと俺を選んでくれるよね?今夜…」



まだみんなに答えを出していない。

だけど私の気持ちはそう―――――



「篤志さん。後で大事なお話があるので、」

「もちろんだよ、サクラちゃん」



ポンッと私の髪を優しく撫でる。

いつだって優しい篤志さん、見つめる篤志さんは嬉しそうに鼻歌を歌っていて。

そんな篤志さんの背中に手を伸ばしてやめた。

私ってば女々しいなぁ。


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