いろんなモヤモヤを抱えたまま時だけが刻まれていく。

クリスマスまであと一週間に迫ったその日、早番あがりの私の前に、オフシフトだったアキラくんが現れた。



「お疲れ!なぁ、デートしない?」

「デート?」

「そ、ディズニー行こうよ!」

「えっ!?今からっ!?」



突拍子のないアキラくんの言葉に動くことのできない私の手を引っ張って連れていく。

あっという間にアキラくんの車に乗せられて…



「強引だなぁ、アキラくんってこーいうタイプだったの?」

「どーだろ。ちょっと必死なのかも?」

「必死?」

「うん。なんていうか、田崎に取られないように?」



…もしかして、スタッフルームで話してたのって、アキラくんとタカヒロなのかな。



「ディズニーなんて久々だよ私!」

「俺も!」



約一時間のドライブを経て、ディズニーシーに着いた私とアキラくん。

アフターチケットには、カップル限定で小さなチャームが付いてて、それをアキラくんは私に渡してくれた。



「よし、んじゃ行くよ!」



スッと私の手を握ると更に鞄まで持ってくれてシーの中を歩き出す。



「これ乗ろうぜ!」

「…え、これ?私絶叫系苦手で…」

「大丈夫!手絶対ぇ離さないから」

「そーいう問題じゃなくない?」

「いーから、ほら!行くよ!」



ちょっと強引なアキラくんに連れられてタワーオブテラーの前、思いの外人は少なくてすぐにアトラクションに乗れる順番がやってくるんじゃないか?って。

アトラクションに乗る前に別室でモニターを見る。

真剣に見ている私を不意に後ろからふわりと抱きしめるアキラくん。

え?近い…てゆうか、顎が私の肩にガッツリ乗ってる上に、手まで腰に回ってるんだけど!!



「サクラ、怖い?」

「怖いよ」

「このまま抱きしめててあげるー」

「なんか照れるよ」

「みんな俺達のこと、恋人としか見えてないだろなー」



そう言いながら私をキュッと抱きしめる。

なんだろ、ディズニーマジックってあり?

今この瞬間は、アキラくんと恋人でもいいなんて思っちゃってる私がいるんだ。

恐怖と戦いながらも、絶叫系のタワーオブテラーを乗り終えた私は足がガクガクで。

写真に映ってる私は、顔なんて見えず当たり前に下を向いていた。

隣のアキラくんはそんな私を優しそうに見つめていたなんて。



「あ、ポップコーン食おうぜ!」



さっきから全部払ってくれるから私が鞄からお財布を取りだそうとすると「いいから。俺が誘ってるんだから俺が全部出すって!」ニッコリ微笑んでアキラくんは、ブラックペッパー味のポップコーンを私にくれた。



「ありがとう…あ、やば、美味しい!」

「俺にもちょーだい」



ポップコーンを差し出そうとすると小さく首を振る。

え?

私の手首を掴むとバケツの中に誘導する。

だから指で摘んでポップコーンを取るとそのままアキラくんの口に運んだ。

当たり前に私の指ごと食べるアキラくんに、ドキンとする。



「あ、マジでうま!ね、知ってる?」

「え?」

「この敷き詰められたタイルの中にハートがあるらしくって、それを見つけると願いが叶うって…」



壁に敷き詰められた色とりどりのタイル。

こんな沢山の中にハートがあるの?

あるなら見つけたい。



「知らなかったよー」

「競走!どっちが先に見つけられるか!」

「えっ、ずるい!」



アキラくんと反対側、上から下までタイルを見つめる。

真ん中を過ぎた所でちょうど斜め下にピンク色のハートが見えた。



「あった、アキラくん!ほらこれじゃない!?」

「あ、やられたー。じゃあサクラの願い言ってごらん?」



そう言われたけど…



「急すぎて浮かばない。譲ってあげるよ、アキラくんに…」

「………」



タイルに手を添えてる私の上からアキラくんの手がそっと重なった。

え?って顔をあげた私に覆い被さるようにアキラくんがふわりと私に重なったんだ―――――



「俺の願い…」



小さく言うと私を抱き寄せてもう一度今度はしっかりとアキラくんの唇が重なる。

ドキドキが半端なくて、自分の気持ちも見えないのに、嫌じゃなかったんだ。


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