「よう、モテキ!」
ポカって頭を叩かれて振り返るとコンセのマネージャーの啓司さん。
怪訝に顔をあげた私にニタァっていやらしい目つき。
その隣で、PJ(プロジェクション=主に映写のこと)担当のEMGであるケンチさんが爽やかに微笑んでいる。
「…モテキ?何の話ですか?」
「いや、スタッフルーム、サクラの話で持ちきりだったぞ?」
「えっ!?なんで、誰がっ!?」
思わず椅子を倒してガタンと立ち上がる。
アキラくんにはクリスマス誘われてるし、タカヒロにはからかわれているのか何なのか、あれ以来二人でご飯に行ったりで、何だか自分でもよく分からなかった。
「うーん、サクラちゃんとクリスマス誰が過ごすかって…そんなボーイズトーク?」
優しくケンチさんがそう言うからちょっとドキっとする。
同時にガチャガチャって鍵をあけて中番の篤志さんがオフィスに出勤してきた。
今日の早番が啓司さんで、中番で篤志さん、遅番は哲也さんの三人態勢だった。
EMGのケンチさんも早番で、マネージャー同士も仲がいい。
「篤志さん、おはようございます」
「サクラちゃんおはよう!」
「おいおい俺達もいるけど?」
啓司さんの言葉に篤志さんは「あ、いたの?見えなかったよ」なんて冗談。
ボックス(チケット売り場)オフィスの担当マネージャーである篤志さんと、ボックスオフィスのFTである私は仕事がら一緒の時間を過ごすことが多くて、会話も多かった。
篤志さんはスタッフの中でもカリスマ的に歌がうまくて有名で、その上仕事ができて優しいから人気者だった。
勿論のこと、私も密かに憧れてはいたものの、仕事に支障を浸したくないという思いでそういうことはなるべく考えないようにしてきたわけで。
「空気扱いかよ、俺ら!」
「あ。言っとくけど、サクラちゃんと話すのに俺の許可必要だからね!啓司さんもケンチさんも頼みますよ?」
ちょっとヤンチャな篤志さんのプライベートを覗いてみたくなるから、そーいう冗談言われると。
「篤志くんの趣味もわっかんねぇわ〜」
遠まわしに私の悪口を言う啓司さんにイラっとしたけど「啓司さん、コンセ激混み!」オフィス内に設置されたモニターには売店前に人が集まっていて、慌てて啓司さんがエプロンをつけて出て行ったんだ。
すぐにケンチさんも二階にある映写スタッフにシーバーで呼び出されていなくなった。
シーンとなったオフィスに篤志さんと二人きり、胸がドクンと脈打った。
「この仕事してると、曜日の感覚なくなるよね?」
「はい」
「お休みの日とか友達に合わせられてる?大丈夫?」
「え?」
「休み、友達とも合わなくない?」
「あーそうですね。専業主婦の友達はまぁこっちのが楽ですけど、なかなか土日は休めないから…」
「友達減っちゃうよねぇ〜」
「でもここの人達みんないい人だから私は今が楽しいです」
「ほんと?」
「はい!担当が篤志さんで心強いです」
「嬉しいなぁ〜。あ、クリスマスはサクラちゃんもシフト?」
「はい、遅番です」
「そっか、よかった、俺中番だけどまぁ、遅番と変わらないだろな〜って」
「はは、マネージャーですもんね」
「でも頑張って早く帰りたいなぁ…」
そう言われて会話が止まる。
彼女が待ってるから?
何となく女の匂いのしない篤志さんだけど、そんなわけないよね!
あんだけモテるし、スタッフだって本気で篤志さんのこと好きな子とかいそうだし…
「あ、彼女ですか?」
だからそう聞いたらニッコリ微笑んで「彼女じゃないよ、気になる子はいるけど。せめてドライブでも行きたいじゃん!」…なんだろこの落ち込み用。
全く知らない篤志さんのプライベートなのに、そこに自分がいないと分かったてたつもりだけど、こんなにも心がざわつくなんて。
「気になる人、ですか…」
「サクラちゃんさ、イヴはもう誰かと約束しちゃった?」
「…――へ?」
「ドライブがてらイルミネーションでも見に行かない?遅番待ってるから!」
――――はいいいっ!?
嘘でしょ?
見つめる篤志さんはいつもどおりの頬笑みだけど…
「あの、篤志さん?」
「当日来てくれたらサクラちゃんにとびっきりのもん、プレゼントするよ」
「え?」
「俺を選んでね?」
「え、あの?」
「よし、仕事!今日も頑張ろう!」
ポンって背中を軽く押される。
吃驚するくらい心臓がバクバク高鳴っていたんだ。