■ 02
この世の中は嘘で溢れかえっている。
生まれた時から結婚相手は決められていた。
親の敷いたレールの上を歩くことがいつからか苦痛になっていた。
礼儀作法や社交ダンスまで習った。
全ては一條の名を大きくするために。
貿易会社の社長である一條京介は私の父。
一人娘の私に興味があるようで全くない父は日本と海外を行き来していて滅多にこの大きすぎる古城には帰ってこない。
高校を卒業してまる三年は、外の会社で社会勉強をしてこいと言われ、ごくごく普通に就職したものの、全くもって人生楽しくなんてなかった。
どうせなら父が目をかけた会社に行くべきだったと後悔したのは入社後一週間も立たない時だった。
社会人とはこんなにわけのわからない仕事をしているんだって反面、自分の未来にさえ不安を感じた。
こんな世の中で自分に幸せなんて来るのだろうか?
変わらぬ毎日を繰り返すのが社会人というものらしく、どうせ三年しか顔を合わせることがないからって、なるべく人と関わらないようにしてきた、はずだった。
この前までは。
一年後輩の佐渡未有。
何故だか分からないけれど私はこの女に心底好かれている。
最初は特に何も気にしなかったけれど、ここ最近の未有の言動は度を越したものが多かった。
私のありとあらゆる日程を知りたがり、当たり前にそこに入っていない未有を悔やむ。
挙句の果てには、仕事で他の人と話しただけでわけのわからないヤキモチを妬く始末。
正直うんざりしていた。
会社に行きたくない理由の一つとしてこの未有の果てしない束縛に耐えきれないってこと。
周りの人に言ったところで「それだけおもわれてるんだよ、逆に羨ましいよ!」なんて他人事。
変われるもんなら変わってほしい。
恋人でもない人にそこまで思われるのは私には向いていない。
そもそも散々父に縛り付けられているこの人生。
父以外のしかも自分よりも下の女に縛られるなんて絶対にごめんだった。
そんな未有の話をここんとこ毎日のように繰り返す私を見て、臣が身体の疲労をほぐしながらやんわりと言うんだ。
「愛されてんね、麻利亜ちゃん」
「…愛されてるって、女同士で使う言葉じゃないよね?」
「まぁそうかもだけど。彼女、なんでもしてくれそうじゃない?」
「…よく分からない。たんに友達がいないんじゃないの?」
「それは麻利亜ちゃんも同じじゃないの?」
「煩いな!」
「ハハ、ごめんごめん。けどマジでそこまで愛されるのもすごいことじゃない?」
「…もう考えたくない。私重たいの好きじゃない。臣もうマッサージいらない、こっちきて」
私の言葉に手を止めるとそのままベッドに乗っかってきた。
私の髪を優しく撫でる臣は目を細めて私の頬に指を添える。
「キスしてもいい?」
「一々聞かないでよね」
そーいうの聞かれるたびに、臣が義務で私を抱いてる気になるんだから。
孤独に開放される日はくるのだろうか。