■ 07
「疲れた…」
結局上司は群馬まで謝りに行った。
私の言動のせいで。
何だか煮えきらない。
今日は誰にも会いたくな…―――――「お父様?」一條の家に入るとそこにいないはずの父の姿があった。
吃驚して後退りする私を一瞥した父はニコリと微笑んで私の頭を撫でた。
「随分遅かったじゃないか」
威圧的な声に内心ビクリとする。
「仕事で少しトラブルがありまして…」
「そうか。適当にやりなさい、すぐに一條の名を継ぐものとしての未来があるのだから」
「…はい」
「ところで麻利亜、お前の縁談の話を進めておいた。あちらも乗り気だから一度顔合わせをしておいた方がいいと思って。25日の夜、空けておきなさい」
「…はい」
縁談なんてクソくらえ。
お金持ちだって羨ましがられることが多かったけど、なんだろうか、金持ちには金持ちなりの悩みも多い。
そもそも人生のパートナーを親に決められる私ってなんなんだろうか。
恋愛なんてしても無駄だと叩き込まれてきたから恋なんてできるわけない。
「ただいま…」
ガチャリと部屋の鍵を開けるといい匂いが漂っていた。
裸エプロン姿の臣が私を見てニッコリと微笑む。
「お帰り麻利亜ちゃん。あれ?元気ない?」
「………」
喋りたくない。
臣の顔を見ただけでイライラが募る。
我儘を言いたくなってしまう。
困らせてしまいたくなる。
「シャワー浴びる」
臣を無視して洗面所へ移動すると慌ててバタバタと臣が私を追いかけてきた。
手首をギュッと捕まれて「どうしたの?」なんて。
私は無言で臣の手を振り払う。
「麻利亜ちゃん?」
「触らないで臣」
「え…」
裸エプロンの臣は悲しそうに私から手を離した。
簡単に離すぐらいなら最初から触るなっつーの。
なんともイライラがおさまらなくてどうしたらいいのか分からないんだ。