■ 08
それでもシャワーを浴び終えた私に手料理を準備し終えた臣がエプロンを外して待っていた。
どこから見ても無駄のない完璧な身体…
余計にムカつく。
「なんかあった?」
「別に」
「俺は笑わないよ」
「知ってるわよ」
臣が一度だって私を馬鹿にしたことなんてない。
いつだって私を最優先してくれる。
でもきっと借金の肩代わりしたからだって。
そこに愛なんて芽生えるわけがない。
ポスっと腕を伸ばして私の頭を撫でる臣に、いつもならイラつくのに何でか今日はちょっと泣きそうで。
「…会社でミスしてしこたま怒られた。帰ってきたら父に、縁談の話進めるって言われて、クリスマスに会う準備しておけって…」
「縁、談?」
キョトンと私を見つめる臣。
食べてた箸を止めて私を真っ直ぐに見つめている。
「そうよ。元々私の自由な時間はあと2年だけ。だから臣も2年後には解放してあげるわよ」
「契約結婚ってこと?」
「…そう。別に好きでもない男と結婚するの。それが私の人生…」
ガタッと臣が立ち上がって私を抱き寄せる臣。
ほんとズルイ、そーいうの。
「なんで黙ってたの?俺知らないよそんなの…」
「何になるのよ、臣に言って…父に逆らえる人間なんていないわよ」
「けど、麻利亜ちゃんの人生は麻利亜ちゃんのものだろ?ちゃんと恋してそれで結婚しなきゃダメじゃん…」
酷い人。
そうやって臣も私を突き放すんだから。
自分は含まれていないってね…
「離してよ」
「無理」
「離しなさいよ」
「幸せになろうよ」
俺と―――――そう言う勇気もないくせに、気休めなんて欲しくない。
今夜も、眠れそうもない。