「うん! ちゃんと言ってくる」
「頑張って」
「う、うん…。じゃあまた明日」
「気をつけて。何かあったら電話してね」
「ありがとう、ユナ」
背中を押されてあたしはクラスみんなが見る中、不安気な顔のまま廊下で待つ寺辻くんのところに歩いて行った。
「退屈だったねぇ」
あたしの顔を見るなりそんな言葉をくれる寺辻くん。
「6現なんだったの?」
「政治経済? センセーの話退屈すぎて…早く逢いたかったな、ユヅキちゃんに」
ドキ…―――
くしゃって顔を歪ませて笑顔をくれる寺辻くんと、“逢いたかった”って言葉にあたしの心臓は激しく高鳴っていく。
隣を歩く寺辻くんはあたしを壁側に寄せてくれて、それが何だか守られている気がして、ますますドキドキしちゃって…。
こうやって男子に女扱いされることもなかったから、こんな展開を嬉しいと思ってしまうのは仕方のないことなんだろうか?
「………」
それでも寺辻くんの言葉に何も返すことのできないあたしは、ひたすら廊下の窓の外を見つめていた。
「予定ある? 今日このあと」
「え? 特にないけど」
「じゃあデートしよっか」
「え、あたしと?」
思わずそう言ってしまって、ハッと口をつぐんだ。
でも寺辻くんは優しく微笑んで「そうだって」ってあたしの髪をポンポンってする。
「あれ?ユヅキちゃんが言ったんだよね? 付き合って!って」
寺辻くんの言葉にあたしは俯く。
今がチャンスよ、ユヅキ!
この流れでちゃんと言うのよ!!
一度大きく息を吐き出したあたしは、次に大きく息を吸い込むと隣の寺辻くんを見上げた。
「あのあたし…」
「うん?」
「あのね、あのっ…」
「うんうん…」
「じつは、本当は…」
「あ、ケンチいた!待てよお前昨日また…
グイっと腕を引っ張られて、あたしを連れて廊下を走る寺辻くん。
「ごめんアイツ苦手!」
そう言って追いかけてくる生徒を何とか振り切った。
下駄箱の前で息を切らすあたしにポンポンって背中に手を回して軽くあやしている。
「ごめんね、ちょっと悪戯がすぎちゃったみたいで、しつこいの」
ニッコリ微笑んで、掴んでいた手をスッとあたしの指に絡ませたんだ。
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