真っ直ぐにあたしを見ているその瞳は、ほんの少し冷たく感じて。
何も言いだせないあたしに、更に言葉を続ける…―――
「哲也が相手だって分かってたよ、ほんとは。けど…すげぇ一生懸命に言った気持ち、無下にしたくなくて…オレの前で真っ赤な顔で自分の想い告げたユヅキちゃんの気持ち…大事にしてやりたかった…」
う、そ…
「ごめんな、騙して」
スッと髪を撫でられて…
騙してたのはあたしの方なのに…
そんな風に思ってくれていたなんて思わなくて…
「寺辻くん…」
泣き出してしまったあたしを優しく見つめてくれる。
さっきまでの苛々した空気はもうなくって…
「次は間違わずに言えよな!」
クシャッて笑顔をくれる寺辻くんは、あたしの涙を指で拭うとその背中を押してくれる。
「一つだけ」
「………」
「キスはほんとに、好きな子にしかしねぇから。信じてな」
「ふぅっ…」
「ごめん、誰か呼ぶから送って貰って…」
あたしを押す手がゆっくりと離れていく。
すぐにバイクのエンジンがかかってあたしの前からカレの温もりが消えた…―――
ペタンとその場に崩れ落ちるみたいなあたし…
近くにいる人が見て見ぬフリをして通り過ぎていくけど、どうだっていい。
何も言えなかった。
自分で言わなきゃいけなかったのに、何もかも気づいてて、寺辻くんの方から言ってくれるなんて…――どこまで優しいんだろうか。
自分があの日、どんな顔で想いを告げたのかなんて考えもしなかったけど…必死な顔のあたしの気持ち…受け止めてくれたんだって…。
認めざるを得ない寺辻くんへの想いを、こんな風に持って行ってしまうなんてズルイよ。
今更あたし、哲也くんになんて戻れるわけないのに…
「…行かないで…」
もう届かない寺辻くんへの気持ちを今更口に出しても変わらないのに。
「ユヅキ…」
ポンっとあたしの肩に手が触れて…
寺辻くんが呼んだ将吉が泣いてるあたしを心配そうに見ている。
「何があった?」
将吉に聞かれても、答えられるわけもなく…涙の止まらないあたしはその場でずっと泣いていたんだ。
今になってやっと分かる、寺辻くんへの恋心が、胸を締め付けて痛いんだ…――――
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