「…つーか何で泣いてんの?」
突然後ろからネスにそう言われて…ドキっとした。
まだ濡れたまつ毛を手で拭うあたしは寺辻くんの顔も哲也くんの顔も見れない。
「怖かったんだって、こんな怪我…。ユヅキちゃんには慣れてないことだから」
寺辻くんがあたしの肩にポンって手を乗せてそう言ってくれたけど…。
ネスの視線は今もあたしを刺すように見ていて…
「ほんとにそれだけ?」
「それ以外になにがあるんだよっ!」
ネスの声に被せるように寺辻くんが怒鳴り散らしたっ!!
それにビクっとして肩をすくめる。
「ケンチ?どうした?」
ベッドの上から哲也くんの優しい声がして…。
「とにかくユヅキはオレが護る!!」
そう言うとあたしの腕を引っ張った。
そのまま病室から出て行こうとして…「哲也くん、お大事に!」そう言うのが精一杯だった。
でも、あたしが哲也くんに声をかけたら…寺辻くんのあたしを引っ張る腕に力がこめられたような気もして…
何となく、寺辻くんの醸し出す空気が乱れていて、あたしは何も言えない。
病院を出た所に停めてあったバイクの前で、ようやく寺辻くんがあたしに視線を向けた。
「…哲也が心配?」
「へ?」
聞かれた言葉は分かったけど、その意味が分からなくて…
「何で泣いたの?」
もう乾いている頬を指でスッとなぞった。
泣くつもりなんてなかったけど、痛々しい哲也くんの姿を見たら自然と涙が出ちゃって…―――それはやっぱり好きな人だから…ってこと?
でも、言えるわけない。
「…吃驚して…」
そう言ったら寺辻くんの小さな舌打ちが聞こえた。
すごく苛々しているのが分かる。
でもそれが何でなのかあたしには全く分からなくて…
だからどうしたらいいのかも分からない。
恋愛経験のなさとかそういうんじゃなくってもっと…――――
「やっぱり…」
聞こえた寺辻くんの声に顔を上げると、あたしを真っ直ぐに見つめていた。
妙な胸騒ぎがして…
あたしは不安な顔で寺辻くんを見つめ返す。
「やっぱり哲也が好き?」
出てきた言葉に吃驚した。
「オレじゃないよね…ユヅキちゃんが告ろうとした相手…哲也なんだろ?」
- 18 -
[*prev] [next#]
[TOP]