「はい、あ〜ん」
「…いや」
「照れない、照れない」
「う、うん…」
小さく開けた口にアイスクリームを差し込む寺辻くん。
ゲームセンターで、どこぞの先輩3人をあっさりやっつけてしまった寺辻くんと繁華街の中にあるアイス屋さんでアイスを食べているわけで。
こうして普通のカップルがするようなことをねだられても嫌じゃない。
やっぱり自分が分からないよ。
哲也くんが好きという気持ちは嘘じゃない。
けれど寺辻くんとこうして過ごすのも悪くないと思い始めている自分がいるのかもしれない。
「美味い?」
「あ、うん」
「オレも欲しいなぁ」
「え?」
「ユヅキちゃんのアイス」
「あ、うん」
…これはやっぱり“あ〜ん“してってことだよね?
ドキドキしながらあたしは自分のカップに入ったアイスをスプーンですくって寺辻くんの口元に運んだ。
パクって何の躊躇(ちゅうちょ)も躊躇(ためら)いもなく口にする寺辻くんをジィッと見つめてしまう。
あまりよく見たことなかったけど顔整ってるんだなぁ。
堀深い大きな目がちょっとだけ色っぽい。
上唇薄いんだ。
優しさが顔ににじみ出ているんだなぁこの人は。
そんなことを思っていたら、急に寺辻くんの手があたしの手首を掴んだ。
「キスしたいの?」
とんでもない言葉が飛んできた。
なんでそんな発想?
「ユヅキちゃんオレの唇ばっか見てる。する?キス?チュッて軽いのする?してあげるよ?」
「や、そんなつもりじゃ…あの、寺辻くんはその…キスとかそんなに簡単にできるの?」
恥ずかしながらそう聞くあたしに、寺辻くんの手が離れていく。
それを少し寂しく残念に思うあたしがいて…
「まさか!好きな子にしかしないって。あれ?オレのこと誤解してる?」
優しそうな目を少しだけ細める寺辻くんは、ふざけている気配はなくてあくまで真剣。
その硬い表情に意味もなく心拍数が上がるあたしは、その顔を綺麗だと思ってしまっている。
「じゃああたし以外とはしないの?」
どうしてそんな言葉?
今の今までそんな言葉用意なんてしていなかったのに。
その答えを聞いてあたしはどうしたいんだろう?
どんな答えを期待しているの?
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