忘れてたけど…


さっき後ろから抱きしめられた時は何でか大丈夫だったはずなのに、前から抱きしめられると…本当に抱きしめられているって感じて…。

今までパパ以外の男の人に抱きしめられたことなんて当たり前にないあたしは、顔から火が出そうなくらい…

口から心臓が出そうなくらいにドキドキしてしまう。

何も言えなくて、何もできなくて…


「哲也、将吉にむやみに女に手出すなって言っといてよ?」

「オレが言って聞くと思う?」

「まぁそうだけど…。ユヅキちゃん怖がらせるだけだから当分我慢してって、とにかく言っといて?」

「はいはい」

「じゃオレユヅキちゃん連れてっちゃうから、後処理頼むよ?」

「面倒くせぇ…」


そう言いながらも、携帯を取り出す哲也くんは、どこかに連絡を入れていて…一瞬鋭い目つきになったと思ったらド低い声で携帯越しに威嚇しているようだった。


「あの…」

「ん?ユヅキちゃんなに?」

「哲也くん…何してるの?」

「哲也?…あいつらの引き取りの連絡。&あいつらのチームの頭呼び出し。落とし前つける為にね。大丈夫、哲也一人でも勝てるから…マジであのチーム弱ええの。弱ええのに、いきがってる奴ばっかで、正直面倒くさい。しかも何か分かんねぇけど、オレ等に敵対意識…ああもしかしてオレ等のチームに入りたいのかも?…無理だけど…。美男じゃなきゃダメなんだってぇ、将吉が言うに…」


また、違う世界を垣間見てしまった。


「あ、震え止まったね?ごめんね、怖い思いさせて。でも絶対オレが護ってあげるから…何も心配いらないよ?」

「…うん…」

「うん!じゃあハイ、後ろ乗って!アイス食べに行こう!」

「…うん」


お決まりのように抱き上げられてバイクの後部座席に乗せられたあたしは、そのまま寺辻くんの運転で繁華街までやってきた。


「メットも買わないとねぇ、ユヅキちゃん専用!」


嬉しそうに笑う寺辻くんの笑顔に、思わずつられて笑いそうになった。

でもあたしまだ、肝心なこと言ってない!!

忘れちゃいけない、告白の相手間違えてたこと…。

でも哲也くんにも寺辻くんのこと頼む…って言われて返事しちゃって…

あたしの気持ちってどこにあるんだろう?

自分の気持ちがよく分からないよ。



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