溢れそうな気持ち



戸惑っているのは、私も剛典くんも一緒で…。


何となく気まずい空気が流れてしまう。


こんな時、恋愛慣れしているような女だったら、すぐに話題を提供できるんだろうけど、残念ながら今の私にそんなことはできそうもなくて…。


むしろもうこうなったら剛典くんの方が慣れているって言っても過言じゃないような気さえしてくる。




『あ、ごめんね…嫌とかそういうわけじゃなくて…』




飛び出した言葉はこんなありきたりな誰でも言えるような台詞のみ。


そんな私に対して首を小さく振る剛典くんは、私から少し距離を取って隣に座ったんだ。


でもその離れた距離が何だか寂しく感じてしまうなんて…。


自分で本気にならないって決めたはずなのに…私ってば嫌だな…。




「ナナさん…」

『えっ?』

「ボク…やっぱりあなたが気になってます…。これは愛だと思う…」

『…剛典くん?』

「初めてあなたを見たのは雨の日で…。店の外からこっちを見ているあなたに…胸がキュウってなって…白いシャツがあなたによく似合っていて…すごく綺麗に見えた。それから結構頻繁に店の前で足を止めて、中に入らないで帰るあなたをずっと見てました…」




…ジッと真っ直ぐに私を見つめるその瞳がキラキラしていて、吸い込まれそうになってしまうんだ。


どうしよう、私…―――好きになっちゃいそう。




「恋人はいるんですか?」

『…いない』

「ボクとのこと…」

『剛典くんあのね!!』





思わず遮ってしまった言葉に、剛典くんはハッとしてまた小さく苦笑いを零した。


しまったって顔で私から目を逸らす剛典くんはほんの小さなタメ息をついて。





「はい…」

『私、剛典くんよりずっと年上よ…』

「はい」

『無理よ…』

「…なんで?」

『剛典くんには分からないでしょ…。でも無理なのよ…』

「…ナナさんボクが嫌い?好き?」




答えにくい質問を飛ばされて口ごもってしまうんだ。


どっちとも答えられない私は、鞄を抱えて立ち上がった。




『ごめんね剛典くん…』

「え、待ってください!」




歩き出す私の腕を掴んで、背中にピタっと剛典くんの温もりが触れた。


それほど小さいわけじゃないのに、それでも私をすっぽりと包んでしまうその身体は、いくら年が離れているといっても完璧な男でしかなくて…どうしようもなく胸がトキメイてしまう…。





『剛典くん、離して』

「いやだ」




ドキンと胸が音を立てた。




溢れそうな気持ち

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