本気にならない



思わずポーっとしてしまった。


…異性にデートに誘われたのなんていつぶり??



…―――私ってば恋愛さぼりすぎてない??




ドキン…ドキン…――と、確実に早くなっていく鼓動を手に取るように胸に手を当てて目を閉じた。


大きく深呼吸を繰り返してゆっくりと目を開けると、カウンターの中からこっちを見て微笑んでいる剛典くん。


涼しめな目が優しくこっちを見ている。


たったそれだけのことで全身血が上るみたいに熱くなったんだ。





ヤバイ、これって…――――恋なのかな…。


あんな年下の大学生に、マジ恋なのかな…。


いいのかな、いや、まずいよね…。


さすがに本気になんかなっちゃダメよね…。


浮かれそうな気持ちとは裏腹に、冷静な自分もいて、心の中でしばらくの間葛藤が続いたんだ。





そうして出た答え。


本気にならない!!


それが私の出した答えだった。





「お待たせ」





そう言ってお店からほんの数百メートル離れた小さな公園内にある可愛い噴水の前で待っていた私に、剛典くんが走ってやってきたのは、時計の針も23時を過ぎていた。





『うん』





心なしか緊張を隠せていない私を覗き込むように見つめる剛典くんからは、何だかすごくいい匂いがして、ちょっと眩暈がしそう。





「ここで少し話してもいいですか?」

『あ、うん』

「店ほとんど閉まっちゃってるんで、今日はここで…。今度ちゃんとデートして貰えませんか?」

『…今度ね』

「ナナさん?」

『うん?』

「ボクのことどう思ってる?」





…―――いきなり??


戸惑うように剛典くんから目を逸らす私に、剛典くんの手がギュっと私の手に触れた。


ドキっとして顔を上げた私に、吃驚するくらい至近距離で私を見ていた剛典くん。


顔が触れ合いそうな距離で、慌てて私は噴水の石がきから飛び降りた。





『待って、そういうの、なし!!』





恥ずかしいからちゃんと目が見れなくて。


自分でも吃驚するくらいドキドキしている。


心臓が飛び出ちゃいそうなくらいで…


気持ちが溢れてしまいそう…。





「ごめんなさい、ボクいきなりでしたよね…。あー…何やてんだ、オレ…」






頭をわしゃわしゃ掻いて剛典くんも、私から一歩離れた。


まさか、キスされそうになるなんて思ってもなくて…



でも、あの一瞬で思ったことはただ一つ『嫌じゃないんだ、私』心の声が自分に届いた。




本気にならない

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