誘い




「どうしたんですか?」





どうぞってお決まりの珈琲を出してくれた剛典くんにそう声をかけられて顔をあげた。


持ち歩き式のコンパクトなパソコン画面から目を離して剛典くんに視線を移した。




『えっ?なに?』

「顔…嬉しそうですよ?」




剛典くんに言われて思わず自分の頬をつねった。


だって思い当たる節があるから…。


別になんてことないんだろうけど、人から見たらどうってことないんだろうけど…―――






「ナナ何かいいことあった?最近楽しそうだね?」



会社の同僚にそう声をかけられたんだ。


その瞬間浮かんだのは剛典くんで。


剛典くんとのこの時間がいつの間にか私にとっての癒しの空間で…。


口角をあげて笑う私を見て、剛典くんがフワリと笑い返した。





『ふふ、いいことあったけど内緒』

「ええ、教えてよ?」





カタンと目の前の椅子に剛典くんが腰を下ろした。


私の時間に合わせて休憩をとってくれる剛典くん。


私の前でまかないの夕食を取るのが日課になていた。


目の前で豪快に食べる剛典くんがすごく可愛くて、私はずっとその姿を見ていたいだなんて思うんだ。


敬語とタメ語の入り混じった話し方も何でかツボで。





『ダ〜メ!』

「どうして?」

『ん〜…恥ずかしいから?』

「から?」

『そうよ』

「…気になるなぁ〜」





そう言って更にご飯を食べ進める。


パソコンを閉じて鞄にしまう私はそれからふう〜っと息を吐いた。





「仕事、大変ですか?」

『まぁね…』

「ここに来るのも大変?」





そんな質問をされて私はキョトンと首を傾げた。


そんなこと、一度も思ったことがないから。





『剛典くん?』

「はい?」

『そんなことないからね?』

「ほんと?」

『うん。だってここに来るのが今の私の楽しみ…―――』





しまった!!


何だか今のって…ほらなんていうか…


カアーっと顔の奥から熱くなっていくのを感じてしまう。


剛典くんから見たら私なんて年上だしきっと別にそういう色目で見ているなんてことはないんだろうけど…―――





突然握られた私の手に……嫌でも期待したくなるよ。





「ナナさん…この後時間ありますか?」

『え…』

「ボクとデートしてくれません?」

『…デートって?』

「ね、ボクのバイト終わるまで待っててください」





スッと手を離して剛典くんが私の前からいなくなった。




誘い

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