恋の始まり




冗談ぽくそう言って笑うと、カレが照れたように目を細めた。


口元に手を当てて嬉しそうにしている姿がすごく可愛くて…俗にいう胸キュンみたいなトキメキを感じていた。





「ボクまだ始めたばかりなんですけど…あのよかったらまた飲みに来てくれませんか?」

『え…?』





思わずそんな声を出す私に、カレはもっと照れたように笑って…




「あ、いえ…そういう意味じゃないっていうか…そういう意味じゃなくもないんですけど…なんていうかその…―――またあなたの顔が見たいって…いや、そうじゃなくて…――元気になって欲しいんです、あなたに!!いつも止まってるの、気づいてました…」





お店の入り口の向こう、店内が暗めだから外から中は見えにくいけれど、中から外は案外夜でも人の通りが見えるんだって…。


私が立ち止まってるの、見られていたなんて…。


それこそ恥ずかしいのに、何だか胸が高鳴るような気がして…。


見上げたカレはやっぱりまだ照れた顔で。





『いいの?』

「はい!ボクの珈琲で…あなたを元気にしてあげたいです…」

『嬉しい…。ありがとう…』

「ボクほとんど毎日入ってます。だから毎日…逢ってくれますか?」





何だか告白みたいじゃん…。


なんて思いながらも頬が緩んでいくのが分かる。


たぶん、恋の始まりがあるとしたら…今なんだと思う。


そして私は今の時点ではこの恋に気づいてやいないんだけれど…――――




『うん、いいよ』

「岩田剛典です!みんなは岩ちゃんって呼びますけど…好きに呼んでください」

『私、ナナ。好きに呼んでいいよ』

「じゃあ…ナナさん。素敵な名前ですね、あなたによく合ってる」

『…恥ずかしいから』

「ほんとです!ほんとにいい名前です…」

『ありがとう』





微笑む私に剛典くんも微笑んで。


携帯番号を交換したわけでも、住所を教え合ったわけでもなく…



その日を境に、私は剛典くんとこのお店で逢うようになったんだ。





恋の始まり

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