癒しの味



『…はい』




恥ずかしいからそう一言呟くと、「どうぞ」って私の背中に手を回して気になっていたそのお店に誘導してくれたんだ。




カランと中に入ると古びたアンティークと昔の曲がかかっていて、なんてゆうか…昭和の香りがぷんぷん漂っていた。


でも、ちょっと眩めの店内とそれがマッチしていて…思った通り、素敵な所。



私は奥のテーブルに通されてそこで店内を見回していた。


中には常連客っぽい老人だけかと思っていたけど、そこにはそう…――――





「岩ちゃん今日何時に終わるの?」

「内緒」

「もう、教えてよっ!!」

「ダ〜メ!」

「ちぇ〜。毎日通ってんのに、あたし!」

「それは嬉しいけど…最初は直人目当てだったよね?」

「…だって直人女できちゃったじゃん!」

「だからってオレ?直人の変わりとか嫌だな〜…」

「直人よりも岩ちゃんが好きなの、あたし!」

「ありがとうね〜」




…さすがだ。

まぁ、そりゃそうだよね…。



あんだけのルックスだったらカレ目当てにくるお客だっているよね。


何だか自分とはかけ離れている気がして、私は一線を引いてその会話を聞いていた。



そういう会話は一か所だけに留まらず、全ての女性客の相手をするカレをちょっとすごいと思った。


私でさえ見とれたぐらいだもん、世の女子達がほおっておくはずはないか…。





「すみません遅くなって…ボクが淹れたんですけど…飲んで貰えますか?」





カタンと、私の前に珈琲を差し出してくれたカレ。


私は素直に受け取ってそれを一口飲んだ。


ちょっと不安げに私を見つめるカレの視線を独占しているって思うとちょっとだけ嬉しくて。


別にあの子達に対抗する気はさらさらないけど…疲れたお姉さんにこのぐらいのサービスは許されるよね…なぁんて思ったんだ。





『…美味しいです、すごく』

「ほんとですか?」

『はい。苦さもあまりないし、私の好み…知られた気がする…』






癒しの味

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