気になること




そのお店は珈琲の香りが漂っていて、いつも足を止めてしまう。


地元の駅からちょっと歩いた所にある商店街の中の一角。


一人暮らしのアパートまでの途中にあった。


入りずらいってわけじゃないけど、こういうお店ってきっと常連さんばかりなんだろうな…って思うんだ。


だから私は毎日そのお店の前で立ち止まっていながらも、まだ一度もその中に足を踏み入れたことがなかった。





そんなある日…。


いつも通り仕事帰り、疲れた足を動かしながらそのお店の前で立ち止まっていたら、カランとお店のドアが開いて、バイトらしき男の子が出てきた。


清潔感溢れた真っ白なYシャツに黒いシンプルなエプロンをかけたその人…。


時々見かける小柄で可愛らしい感じの子とは少し違っていた。


品のある顔立ちは優しそうで。


新しい人かな…?


何となく見つめてしまう私に、バチっと視線を上げたその子と視線が絡み合った。




…――――綺麗な顔…。



一目惚れなんてするタイプじゃないけど、この人のスッと通った鼻筋に、薄めの唇。


そして真っ直ぐな瞳に…――――思わず見とれてしまった。





「珈琲好きですか?」





そしてそんな言葉がその唇を割って飛び出てきた。


…私に?


言うわけないか…。


でも、周りに人は私ぐらいしかいなくて…。





『私ですか?』





そんなマヌケな質問を返してしまう。


そんな私に向かってニッコリと微笑むカレは「はい」そう言って私を見つめた。


ずっと気になっていたそのお店。


入るチャンスが今だ!って咄嗟に思った。





『大好きです』





気づくと元気よくそう答えていて…そんな私にカレがゆっくりと歩を寄せてくる。


近くにくると、すごく背が高くて…珈琲のいい香りがカレを包み込んでいる。





「うちオリジナルなんですけど、飲んでいきませんか?お姉さん疲れた顔してるから…きっと元気になると思います」





うわ、私ってばそんな顔してたなんて、ちょっと恥ずかしい!!


でも…正直身体はクタクタで。


今日は派遣の子が休みだったから仕事の量が倍増して帰り時間もいつもより遅いのに…。


そういうの…人に気づかれたの…初めてだ。






気になること

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