可愛い人
私の腰に回した腕に力が込められて、これでもかってくらい強く抱きしめられた。
心地よさと恥ずかしさが混ざって何ともいえない気持ちになった。
それでももう、剛典くんから離れることは止めようって。
今の私ごと受け止めてくれる剛典くんを、選ぶんだと…。
「ナナさん…」
『剛典くん…』
「好きです…」
『私も…』
「…ほんとに?」
『うん。もう迷わないって決めた』
そう言う私を真っ直ぐに見つめる黒い瞳は微かに揺れていて…私の言葉の続きをしっかりきっちり待っている。
だから、腕を緩めて私を地上に下ろした剛典くんの腕に捕まったまま私は剛典くんを見上げて小さく笑った。
『好きだよ、剛典くん…』
「…やべぇ…」
『…なにが?』
照れたように顔を伏せる剛典くんが可愛くてそう聞くと、真っ赤になった顔をチラリと私に向けた。
正直、恋愛経験多そうな剛典くんだけれど、こうやって私の言葉一つに照れてくれる所はすごく可愛くて…。
年下だなって思える。
ずっと年上とばっかり付き合ってきたものだから、年下と付き合うのってどうなの?って思うけれど…―――こういうのは新鮮に思えた。
スッと、腕を伸ばして剛典くんの柔らかい茶色の髪を撫ぜた。
吃驚したように目を大きく見開く剛典くんに、私はちょっと背伸びをして耳元で小さく囁いたんだ。
『剛典くん、可愛い』
そんな私に向かって困ったように眉毛をさげた剛典くんは、次の瞬間ドキっとするような大人っぽい顔で私に言った。
「子供扱いしないでください」
震える剛典くんの言葉に、胸がキュンとした。
『剛典くん…』
「ごめん、やっぱ我慢できない…一緒に帰ろう?」
『うん』
「その前にもっかい…」
そう言うと、剛典くんは私を壁に追い込んでとびっきり甘いキスをくれたんだ――――。
可愛い人