アフター




『おはようございます』



翌日出勤した会社。


どんなに辛くても陽は登るわけで…。


秘書課の私はマツさんの担当秘書のお役目で。



「あれ?元気ないね?どうしたの?」



顔を覗きこまれて苦笑い。



「わぁ、ほんとだ、どうしたの?」



今年から秘書課に移動してきたゆきみまでもが私を見てそんな声をあげたんだ。




「恋の悩みならオレ、得意分野だよ?」




パチンってマツさんがウインクするものの、誰かに話す気にはなれなくて。


だから私はただ首を横に振るだけ。



そうやって逃げてるせいか、私の脳内は剛典くんのことばっかで。


仕事をしている時もずっと剛典くんのことが頭から離れずにいる。


何をしていても剛典くんの顔が浮かんで手が止まってしまう。




「ナナ、今日はもう帰っていいよ?」




定時を迎えてすぐにマツさんが私にそう言った。


まだ仕事は残っているのに…――そう思って顔を上げた私に困ったような顔が届いた。




『あの私…』

「そんな顔で何考えてんの?さすがにオレも分かるんだけど…」




言われて恥ずかしくなった。


仕事もろくにできないくらい剛典くんが気になっちゃってるの、私??


あんな大学生相手に何本気になっちゃってんの、私…。




『ごめんなさい』

「いや構わないけど?ナナがそういうの珍しいっていうか…。ゆきみみたいに感情出さないからねぇ、ナナ。オレ話聞こうか?」

『マツさん…でも…』

「わたしも、わたしも!!一緒にご飯行こう、ナナちゃん!!」

「うわ、乱入してきた、ゆきみ〜。ウサさんはいいの?」

「うん!行こう、わたしナナちゃんとご飯行きたい!」

「じゃあオレ店予約しとく。外で待ってるから二人降りておいで」

「うん、分かった!」




私を無視して勝手に決まったアフターの約束。


でも、このまま一人でモヤモヤするよりはいいのかなって思えた。


そうやって外に出た私たちの前、ゆきみが「あっ…」そんな声を出した。


見ると、うちの会社にはそぐわない若めの恰好の男の子がゆきみに向かって手を振って近づいてくる。




「直人…どうして?」

「ゆきみに逢いたくて…ダメだった?」

「ダメよ、ダメ。今日はナナちゃんとご飯…」




私よりも年下のせいか、普段は少し子供っぽく見えるゆきみがちょっとお姉さんに見えるのは相手が学生みたいだからなのかなんだろうか?


ってあれ…あの子もだいぶ若いよね??


ええ、剛典くんと同じぐらい?


…ゆきみっていったい…




『あのゆきみ…』

「あ、ナナちゃんごめんね」

『彼氏?』

「えっと…「はいっ!」…うん、そうかな…」

『ふふ、そっか』




ゆきみが言葉に詰まった訳が少し分かった気がして。


私の脳内はやっぱり剛典くんばっかりで。




『えっと…』

「直人です、こんばんは」

『直人くんは学生?』

「はい」

『そっか』




何だかちょっと吹っ切れてしまったんだ。




アフター

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